11日目.側溝 ページ42
○
「その、影山くん。申し訳ないんだけど……」
「……わかりました」
僕は元幽霊が失踪したあのあと、先生に
呼び出されていた。そこで頼まれたのは
学校のどこかにいる元幽霊を探し出すと
いうもの。
先生からすれば、ようやく登校してきた
人見知りの転校生を逃したくないのだろう。
気持ちは分かる。だが、正直大迷惑だ。
僕とあいつは簡単な関係じゃない。他人に
説明するには多くの時間と労力を要する程に
とても複雑な関係なのだ。
関わるたび、もうあの頃を覚えていない
元幽霊を見て傷ついている自分がいる。
そんな自分にうんざりしているのだ。
しかしこれも生徒会本部の務め。
僕は大人しく元幽霊の姿を探した。
○
……あぁ、ごく稀に見るドジが今、僕の
目の前に存在している。そしてこのドジ
はあの間抜けな幽霊にそっくりだった。
「……」
あり得ないくらい赤面しつつ、涙を目いっぱいに
溜めて俯く転校生。もとい、元幽霊。
僕は側溝に足が嵌まり動けなくなっている
人物を生まれてこの方初めて見た。
確かにこの中学校の側溝の幅は狭い。
しかし、何をどうやったら足が嵌まるのか。
「……あの、大丈夫？」
「……」
「えっと……足抜くの手伝うよ。
そのままじゃ動けないと思うし」
「……すみません」
「いいよ。ほら、掴まって」
元幽霊の手を取り、少し力を入れて引っ張る。
元幽霊の手は暖かかった。霊体だったくせに。
元幽霊のくせに、今はちゃんと人間の体温だった。
でも元幽霊の顔は暗い。あんなに煩かったくせに。
僕を我儘で困らせたくせに。纏わりついてきたくせに。
もう、僕のことを覚えていないんだと分かった。
本当に忘れてしまったんだと、思い知った。
側溝から足の抜けた幽霊はまだ俯きながらも
僕に対してお礼を言う。
「あ、あの、ありがとう」
「ううん。足平気？」
「うん」
「そっか」
僕と元幽霊の間には沈黙が流れる。
気まずそうに俯く元幽霊。
と、少し不機嫌な僕。
「……それじゃ、君はこのまま先生のところ
へ行ってくれるかな。僕は君を探すよう頼まれ
てたんだ」
「う、うん。本当にありがとう」
そのまま目も合わさずに背を向ける元幽霊。
短い髪の隙間から見えた耳はまだ赤かった。
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見毛 - すごい丁寧に書かれていてお話も面白い…とても面白いです…!律くんかっこいいなぁ…更新楽しみにしています (2019年4月2日 3時) (
レス) id: fc0f2493d3 (このIDを非表示/違反報告)
ロイちゃん(プロフ) - めちゃくちゃ好きです！更新頑張ってくださいっ！！ (2016年11月22日 6時) (レス) id: 0dbc3b26b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時：2016年10月23日 17時
