【SLH】私とみんなのしぇあはうす！〜その2〜【短編集】

祭　KARASU ページ5

A視点

「あんなぁ、なぁカラス。ちょっと来て欲しいんやけど」

ちょいちょい、と手招きでカラスを呼ぶ。なんやーと、スマホ片手にこっちへ来る。

「どう？似合っちょー？」

「んー、俺はもう一つの柄が良かったわ〜」

「まぁいいか〜〜、じゃ、行ってきます〜」

夏と言えば、夏祭り。私たちが住む家の地域でも夏祭りが行われていた。

外では、盆踊り特有の曲が流れていた。

私はせっせと持っていた赤の華が描かれた浴衣に着替え、家を出ようとする。

するとカラスが「ちょっとまてや」と声をかけてくる。

「俺もつれてってや」

「なんでよ」

いや、今の今まで行こうって言ってないじゃん。と一言言うと、「え、ええやんか！」と、ついてきた。

ちょくちょく地域で見かける子供達が浴衣や甚平に着替えてはしゃいでいた。

「お祭りなんて何年振りだろう、ね、カラス」

狭い地域のくせに、人がやたらめったら多い。はぐれそうだな〜なんて思っていたり。

「A」

名前を呼ばれて振り返る。ん？と聞き返すと、手を握られる。

「……人多いから、はぐれんで」

「…そうだねぇ、…たすく」

珍しく、名前で呼ぶ。相手もちょっと嬉しそう。

「折角の祭りやし…いこか」

歩幅を合わせて、２人で歩く。沢山の露店の間を。子供たちの間を。

「ね、金魚すくい。かき氷」

すい、すい、と指差すと、「しよか、」と、言ってくれる。

「えへへぇ、楽しいね、カラス」

イチゴ味のかき氷、家で食べるのとはちょっと違う甘さ。

「ん、一口ちょーだい」

あーん、と口を開けるカラス。彼のはメロンで、もう舌が緑。

ふふっ、と笑いながら、一口掬って口へと運ぶ。

「私も、頂戴」と口を開けるとメロン味のかき氷が運ばれてくる。

おいしいね、って２人で笑う。

日も暮れてしばらくすると、更に盆踊りをする人が増えて行く。

祭りの人も増えて、色とりどりの浴衣が、提燈や電気の色に映えて綺麗。

「金魚、可愛いね。でもこれどこで飼おうか」

金魚すくい、カラスが２匹取ってくれた。黒と赤、まるで私たち二人。

「せやな、うーん…多分誰か引き取ってくれるやろ」

行き場ができるまで私が飼おう、名前はカラスと私の名前で良いかなぁなんて。

「…お、花火や」

ひゅるるる〜…ばぁん…、夜空の中に煌めく花火。人の声で今まで気付かなかった。

「…来年も、来よう」

「…うん」

そうやって話す私たちの手は、静かに重なっていた。

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