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ユウキちゃん。
俺を学校で唯一そう呼ぶのはクラスメートの上条 A。
「上条ちゃん」
「ん〜?」
俺の呼びかけに顔を上げると一緒に、癖のない艶やかな黒髪がさらりと揺れる。
俺を捉える赤縁眼鏡の奥の涼やかな目。
女子にしては高い身長、しゃんと伸びた背筋、和風美人と称するに相応しい容姿は人目を引く。
「さっきから何見てんの?」
「今度の練習試合のオーダーを組むために最近の成績を見てんの」
上条ちゃんが所属している剣道部はさして強い訳ではない。団体戦では地区大会止まり。
だけど主将の上条ちゃんは別格で、個人で全国大会上位の常連。
1年の頃から全校朝礼で表彰をされている姿を度々見ている。
「へえ…せんほう?」
「せんぽう。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将」
空白が並ぶ枠の中で大将の所にだけ書かれた上条 Aの名前。
「上条ちゃんもエース?」
「まぁ、エースかな?」
「上条ちゃんさ」
「ん〜?」
「剣道好き?」
俺の問いかけに形の良い眉がひそめられる。
「好きじゃなかったらやってない」
「俺も」
不思議そうな顔をする上条ちゃんの手を取る。
白い肌とスラリと長い指に手のひらの硬くなったタコが酷くアンバランスだ。
でも、それは上条ちゃんの努力の証で、タコなんか自分にもあるにも関わらず、上条ちゃんのそれは尊いものに思えた。
「くすぐったいんですけど?」
「キュンとした?」
「キュンとして欲しいならやる人を選ぼうか、ユウキちゃん」
傾げた首に黒髪が流れた。
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作者名:速水 | 作成日時:2016年6月17日 18時