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「お前が自分から欲するなんて、珍しい」
「な、何かすみません…。調子に乗りました…」
「別に構わないんだけど。謝る必要もないし」
頭を抱え込まれるような体勢のため、鍛えられたマサさんの胸に耳が当たり、低めの心地良い声が胸から耳へ、脳へと直接届けられるようだ。
「お前、少し変わったな」
「そう、ですか？」
「何か前は手を差し伸べてやらなきゃって感じだったけど、今は手を伸ばしてくるのを待ってやれる感じ」
「それって、少し強くなれたって事ですか？」
堪らず、ガバッと体を起こして聞いた俺に、マサさんは一瞬驚いたようにキョトンとしていたけど、すぐに「精神的にな」と笑ってくれた。
「お前にとってここ数ヶ月はかなり濃密な時間だったからなぁ」
全日本に招集されて、環境の変化に翻弄されて、怪我をして、過去と対峙してスランプに陥って、周囲の人達の力で何とかまた立ち上がって…。
そんな日々は、辛くて、逃げ出したくもなって、もうダメだとも思ったけれど、得たものもとても多くて、きっと俺のこれからの糧となる。
「マサさん。俺、必ずまた、マサさんと同じユニフォームを着て、同じコートに立ちます」
頑張りますと握った拳に、ぶつけられた拳。
思い出すのは、全日本の試合前に、心臓が口から飛び出しそうなくらい緊張しながらもぶつけ合った拳。
ガッチガチに固まった俺を解すように笑ってくれた先輩達。
行くぞ、と力強く叩かれた肩。
コートへ向かう凛々しい背中達。
あの場所に戻りたいと、心の底から思う。
「俺も頑張らなきゃな」
「え？」
「お前にいつまでもそう言って貰えるように頑張るよ」
「はい！」
未来を確約するなんて、それこそ神様くらしか出来ないのかもしれない。
１年後、1週間後、明日、1時間後、1秒後…。
俺達には何が起こるか分からないのだから。
だからこそ、こうあって欲しいという未来のために努力をする。
それがきっと、求める先の光を掴む一歩となる。
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作者名：速水 | 作成日時：2016年6月17日 18時
