今日よりもっと 明日よりずっと(ヘタレ選手番外編 #15) ページ1
ボールが、自軍のコートに落ちた。
嵐のような歓声が場内を満たし、溢れていく。
あんなに熱かった体が指先から冷えていく。
ネットを挟んだ向こう側では歓喜に打ち震える人達。
こちらのコートは…。
唇を結び、拳を握り締め、涙を流す仲間達の姿を見た瞬間、感情が堰を切ったように溢れ出す。
漏れる嗚咽は歯を食いしばっても堪えることが出来ず、瞼を焼くような熱い涙が次から次へと零れ落ちていく。
体を２つに折って、抱えた膝に顔を埋めて、涙が止まるのひたすら待った。
「ゔ〜…」
理性は今すぐに泣き止めと命じるのに、感情を抑圧するなと訴える本能が勝って冷静さの糸口すら掴めない。
仲間達が口々に励ましや慰めの言葉をくれ、肩を叩いたり頭を撫でてくれたりしてくれるけれど、顔を上げる勇気が出ない。
もう少しだったんだ。
皆で描いた夢に、抱いた目標にもう少しで届きそうだったんだ。
だけど、後一歩届かなかった。
伸ばした手は無情にも空を切った。
絶対的エース。
そう言われていたのは俺で、決めなければいけなかったんだ。
どんなに苦しくても、辛くても、そんな状況だからこそ決めなきゃいけなかったんだ。
なのに…
「お疲れ様、A！」
「ありがとな！」
「お前のお陰でここまで来られた！」
不甲斐ない俺を責めるどころか、優しい言葉を掛けてくれる仲間達に益々涙は止まらない。
途切れ途切れに感謝を言うのが精一杯。
言いたい事は山程あるのに、言葉にならない。
「A」
「三浦先輩…」
「お疲れ様。ありがとうな」
良く頑張りました。
そう言って肩を叩いてくれる表情は晴れ晴れとしていて、もう涙はない。
「すみませんでした…」
「どうして謝る？」
「チャンスを作って貰っても決められない場面がいくつもありました…」
すみません、と下げた頭の中は己のミスをした映像ばかりぐるぐる回っている。
あの場面で決めていたら。
あのボールを拾っていたら。
もしかしたら流れが変わり、結果も違っていまのかもしれない。
もしかしたら…。
過去への後悔と仮定ばかりが浮かんでは消えて、ズブズブと沈んでいくようだ。
そんな俺を引き上げたのは他でもない、三浦先輩その人で、尚も垂れたままの俺の頭に容赦ない手刀を叩き込んだのだった。
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作者名：速水 | 作成日時：2016年6月17日 18時
