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love letter(#8) ページ14

彼女は、手紙を書くのが好きだった。

「良いと思ったらつい買っちゃうの」

と、そんな自分自身に少しだけ困ったような、でも宝物を見つけた時のような嬉しそうな表情をして笑う彼女の家には、色とりどりのレターセットが住んでいた。

お気に入りの万年筆で便箋に書かれる文字は少しだけ癖があって、それすらも愛おしいと思うのは惚気かもしれないがそれでも構わない。

それくらい彼女が好きだった。




俺の家にも不定期に届けられる手紙。
彼女に秘密でそれ専用に作った箱はもうすぐ溢れそう。
癖のある字で書かれた、天気の話だったり日常の話だったりと他愛のないものの中に、少しだけ愛の言葉が混ぜられた手紙は俺の宝物のひとつに加えられている。
返信はいらないから、迷惑なら言って、と笑う彼女は純粋に手紙を書く事が楽しいらしい。


「なあ、何で手紙なの?メールの方がすぐ届くのに」


彼女が家にやって来る直前に届いた手紙を手に問うた俺に、彼女は「残るから」と春の陽射しのように柔和に笑った。
残るから。

その時はその言葉に僅かながら疑問を抱いた。

だけど、今ならその意味が分かる。





手紙は残るからと言っていた彼女からの最後のメッセージは、電話だった。
つまりそれは、彼女が“残したく無かった”という事なのだろう。

『ごめんね…』

そう告げた、絹糸のようなか細い声は震えていた。

彼女は知っていた。
自分の灯火がもうすぐ消えてしまう事を。
だけど、俺は知らなかった。
だからこその『ごめんね』だったのだろう。




海外遠征から戻って来た時には、彼女は既に空へ還っていた。
彼女の実家で、彼女の写真を前にしても実感なんてわかなくて、だけど胸の中に大きな穴がぽっかりと空いてしまったような堪らない喪失感に包まれた。


箱の中には君からの言葉達がたくさんいるのに、君の姿はどこにも見当たらない。

『残るから』

その言葉は、私を、忘れないでという彼女の願いだったんだろう。
そして、あの「ごめんね」は、優しい彼女が、我儘を言ってしまった事への罪悪感からもだったのだろう。

開いた手紙の、いつも最後に確かめるように書いてあった“好き”の言葉が零れ落ちた雫で滲んだ。


「俺も…好きだよ…A…」


受け取った愛に、俺はどれだけ返せていただろうか。




ある青年の受難2(#8、12、15)男主→←2



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速水(プロフ) - ゆめさん» 嬉し過ぎるお言葉ありがとうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります! (2016年6月10日 23時) (レス) id: b15315e85f (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ - 速水さんの作品大好きです!特に、ヘタレ選手が好きなのです!これからも更新を楽しみに待ってます! (2016年6月10日 1時) (レス) id: 44f44b19a6 (このIDを非表示/違反報告)
速水(プロフ) - ? yu ?さん» 本当ですか!?ありがとうございます!嬉しすぎるお言葉です! (2016年6月9日 15時) (レス) id: b15315e85f (このIDを非表示/違反報告)
? yu ?(プロフ) - ハムスターのしつけ方 、すごいよかったです!連載化してほしいレベルです(´・_・`)笑 (2016年6月9日 14時) (レス) id: f79162b6f0 (このIDを非表示/違反報告)
速水(プロフ) - ゆらぎさん» 需要ありますか!?良かった!また思い付いたら受難シリーズも更新させて頂きます! (2016年1月27日 14時) (レス) id: b15315e85f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:速水 | 作成日時:2015年10月24日 1時

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