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「おふたりはどうしたの?あ、もしかして…」
「さっき、たまたま会ったの」
私はカナエの言葉を遮った。そのあとは聞きたくなかった。聞いてしまったら、諦めきれなくなると思ったから。
実弥を見ると案の定、驚いた顔をしている。
「あら、そうなのね〜。逢引き中かと思っちゃったじゃない。ふふ、何かあったら教えてね」
「姉さん、早く行かないと。今日の任務の場所、遠いのよ」
「あら、そうだったかしら。またね、Aちゃん、不死川くん」
「……おォー」
女の私でも惚れるような素敵な笑顔で颯爽と去っていった。
実弥はボーッと遠ざかっていく背中を見つめていた。
「じゃあ……今日はありがとう。結局ご飯もご馳走してくれて。美味しかった!んじゃあ、またね」
もともとここで別れようとしていたのを名残惜しくて立ち止まっていただけだった私は、早々に別れを切り出して屋敷に帰ろうとした。
「オイ、待てよ」
「……どうしたの?」
「さっきの、なんで嘘ついたんだよ?」
……正直言えば聞かれたくなかった。だから、早く帰ろうとした。
だって、自分で好きな人に、アナタは○○が好きなんでしょ?だから、アナタのために嘘ついたんだよ。なんて言いたくないじゃん。
そんなこと聞かずに察してくれたらどれだけ楽だろうか。
けど、実弥は意外と鈍感だから気づかない。
いっそ、ここで振られて吹っ切れようかと思った。
もう、想うだけの恋も辛かった。
実弥と出会ってから好きになるのに時間はかからなかった。
10年間、ずっと好きだったから。
「実弥の好きな人って、…カナエ?」
言った、言ってしまった。
目の前の彼は、大きな三白眼を、さらに大きくした。
そして、そっぽを向いて頭を片手でかきながら
「……っあァ」
と言った。
横を向いたおかげでよく見える赤い耳が、余計に私に現実味を帯びて見せた。
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作者名:ゆゆ | 作成日時:2021年2月9日 1時