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「ただいま〜」
自分の屋敷に帰ってきて、ただいまと言えば当たり前のことながら返事が返ってくることはない。
最近は実弥の屋敷にいることが多かったから、おかえりィと、どこか語尾の伸びた返事があることがあった。
だからといって、返事のないことに少し寂しさを覚えてしまうなんて、これは良くないなと思った。
黄と緑の羽織を大事にかけて、風呂に入る。
疲れて帰ってきた体を休めるため、寝る準備にかかる。
風呂から上がり、髪を乾かそうと縁側に向かった。
すると、月明かりに照らされて反射する銀髪が目に入る。
そんなわけない、と思いつつ期待せざるを得なかった。
廊下を小走りにその背中に抱きついた。
「実弥っ、おかえり！」
「ただいまァ」
くるりと振り返り抱きしめ返して、腕を上げ優しく頭を撫でてくれる。
「……寂しかった」
「はは、随分甘えん坊になったなァ」
「いいの。ぎゅーして」
たった数時間離れただけで、今の私は実弥と離れるのが苦なんだと気づいた。
自分がこんなに寂しがり屋だなんて知らなかった。
カナエがいた時は近くで見ているだけでいいと思っていたのに、想いの通じたあの日からこんなに貪欲に実弥を求めている。
「なァ、一緒に住むかァ？」
一緒に…？住む？……意味を理解した途端、私の口角は上がり始める。
ガバッと勢いよく、腰に抱きついていた腕を首に回した。
「住む！一緒に、住みたい！」
実弥も嬉しそうに微笑みながら後頭部に手を回される。
もう何をしようとしているのかはすぐにわかるようになった。
自然と瞼が閉じる。
刹那、重なった唇。それは何度も角度をかえて重ね合わされる。
「んっ、は、……」
酸素を求めて開く唇。その隙間を待ってましたと言わんばかりに侵入してくる実弥の舌。
「んっも、うっ……おわり！」
だんだん激しくなっていくそれに強制終了をかけた。
ペロリと唇を舐める実弥がとてもいやらしく見える。
「お館様に報告しねェとなァ」
「とりあえず伝言伝えて時間開けて貰えばいいかな？私たち文書けないし」
幼い頃、家の手伝いばかりして学ぶ場のなかった私たち。字を読むことはできても、書くことができない。
実弥の鴉、爽籟に時間をくださいと連絡を頼んだ。
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作者名：ゆゆ | 作成日時：2021年2月9日 1時
