【小説】歯車は狂ったように廻る【募集企画】 (ページ3)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:2,835 hit

3話黒鳥壊嗣ページ3

水しぶきをあげながら、用水路から大きめの魚が飛び出す。

今日はこれで8匹目。大漁と言って良いと思う。

世間を騒がせている怪盗団の実行犯がこんな目立つ所で釣りなんかしていていいのかとも思うが、ここは食い付きが良いのでよく来てしまう。

俺がガキの頃は釣りをするのも物を盗むのも割りと簡単だった。

付近には川や沢がもっと沢山あって魚だって今より食い付きが良かったし、窃盗だって警備が今より厳重じゃ無かったから盗むのだって楽だった。

時が立って川や沢が減り、生態系も変化したせいで魚の食い付きは以前より目に見えて落ちたし、警備も厳重になって物を取るのだって難しくなってきた。

それに追い討ちをかけるように白兎の連中も最近レベルが上がってきている。事実、つい最近追い回されたばかりだ。

だが、窃盗も釣りも最早俺の生活の一部と化してきている。それを今さら止めろと言われても無理な話だ。そう、これは生きていくのに必要な事なのだ。

「釣れますか？」

不意に後ろから声をかけられた。

振り向くと、つい最近俺を追い回した白兎の奴が笑顔でこちらを見ていた。

「お陰さまでな……大漁だよ。そして……最悪だ！」

次の瞬間、俺は地面のコンクリートを広範囲で破壊した。破壊されたコンクリートは同じように破壊されたその下の土と瞬間的に結合され、巨大で頑丈な土の結晶となった。

白兎が怯んだ隙に俺は釣竿と魚の入ったバケツを掴み、昼の陽光がさす街の人混みのなかに全速力で駆け込んでいったのであった。