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「・・・ごめん。撮らへん。・・・・・・卒業おめでとう」
それだけ言って、私の手を掴んでゆっくり離した。
何の言い訳もなくストレートに断られて返す言葉が無い私に、穏やかな優しい顔で「幸せになってな？」って一言だけ言ってみんなの方へ走っていった。
どうしようもなく胸が締め付けられるように痛くて、喉の辺りが乾く感じがする。
最後、私に向けた顔はこないだまでの影のある表情じゃなくて、なんか凄く大人な穏やかな笑顔だった。
きっと斗亜の中で私はちゃんと存在してて、今でも大切に想ってくれているんだろう。
私との関りを全て断ち切ったのに、最後「幸せになって」って・・・。
絶対、斗亜よりも好きになれる人に出会おう。
このもどかしい切ない気持ちが優しく満たされる人と恋愛しよう。
斗亜の後ろ姿を見ながら堪えきれなかった涙が零れたけど、卒業式だから、泣いたって誰も恋の終わりで泣いてるなんて気付かないから。
横にいた拓哉が「なっちゃん」って言って手を振ると、斗亜の隣の女の人が拓哉に手を振ってて、周りのみんなは「あれ誰？」とか「斗亜の彼女？」なんて拓哉に聞いてる。
拓哉が、斗亜の彼女だってみんなに言ってるのを隣で聞きながら彼女さんを見ると、なんかどこかで見た気がして、どこで見たんだっけって考える。
大人の女性なんて普段意識して見ないからなかなか出てこないけど、絶対どこかで見た。
可愛らしいけど綺麗な斗亜の隣にいる女性が、あの夏の日、斗亜がカフェでずっと見つめてた女性だと気付く。
あの日の斗亜の顔、ずっと引っ掛かってた。
あんな苛立って負の感情むき出しの斗亜の顔、見た事なかった。
それくらい・・斗亜をあんな感情にさせて揺さぶるくらい、彼女の事が好きなんだ。
だけど今、少し向こうにいる斗亜は凄く穏やかで嬉しそう。
私にはそんな表情してくれなかったな。
卒業式で斗亜と最後に会話して本当にさよならなんだと思ってたら、極めつけに彼女を見せてくるなんてね。
最初からそうしてくれてたら、もっと早くに吹っ切れてたかな？
斗亜に手を引かれながら恥ずかしそうに拓哉に手を振ってる斗亜の彼女さんと斗亜の後ろ姿を見て、何故か少しスッキリした気持ちになった。
やっともう、斗亜の事、追いかけないでいいんだって。
next・・・
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作者名：あお | 作成日時：2023年6月27日 11時
