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慣れた感じの拓哉くんのキスは私が想像していたキスとは程遠くて、それはきっと拓哉くんの気持ちがないのがわかってるからただの作業の様な動作に感じて、初めてのキスは呆気ないものだった。
数秒唇を重ねた拓哉くんが優しく頭を撫でながらゆっくり唇を離し「・・・初めてのキスってどんな感じ？」なんて、やっぱり馬鹿にされてるような質問をされて「・・・好きじゃない人とのキスはノーカンです」視線を少し逸らしてムキになって返すと「へー・・・彗は俺の事好きちゃうんや？」って、急に名前で呼ばれて思わずドキッてときめいてしまった。
好きな人に名前で呼ばれる事の方が、気持ちのないキスよりもずっと胸にくるものがある。
そんな私の心の揺れに気付いてるような拓哉くんは「なぁ彗？・・・・俺の目見て？・・・・・・・好きって言うて？」
至近距離のまま見つめてくる拓哉くんの言う通りに思わず逸らした視線を再び合わせると、やっぱり真剣な表情で私を見つめてて、ぶつかった視線に逃げ出したくなるような胸の苦しさと居心地の悪さを感じると、拓哉くんの口から出た言葉に喉の奥が突っかかるような息苦しさに唇が震えて鼻の奥がツンって痛くなる。
なんとなく気になる人って自分に言い聞かせてただけで、結構本気で彼の事好きになってたんだって自分の気持ちに気付いて、でも、拓哉くんはきっと私の事を好きなんじゃないって、直感がそう感じてて悲しくなる。
わかっているのに震える私の唇は拓哉くんの問いかけに素直に答えてしまう。
「・・・・好き・・・です」
十数センチ程の至近距離でも聞こえるかどうかくらいの私の言葉は見つめ合う拓哉くんに届いたようで、真剣な眼差しがフワッと緩んで柔らかい笑顔に変わる。
私の頭を撫でていた手がゆっくり下がってきて、そのまま背中に回されてグッと引き寄せられた。
「ありがとう。・・・嬉しい」
声のトーンからも嬉しいのが伝わって、私もそっと拓哉くんの身体に腕を回すけど、寂しさと切なさだけが胸に広がる。
好きと言わされただけで、拓哉くんの気持ちは返ってこないから。
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作者名：あお | 作成日時：2024年2月21日 16時
