ホンキス*2 nino (ページ24)

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59.流されると困るページ24

「ガラスの靴」

あの日、二宮さんはそんなことを言った。
女の子なら…ううん。
普通一般、全般に
誰も彼もが知っているであろう、童話のお話。

夢の国に出かければ、どどーんと正面にそのお話がモチーフのお城がそびえてる。

「ガラスの靴？」

この流れで、何を突飛に？
ガラスの靴とは？

走るタクシーの後部座席。
横にいる二宮さんが言った言葉。

それが、どうして、どうしたの？
ぽんっと名詞だけを置かれてもさ？きょとん、ですよ。

「あ、この辺で」

私の質問返しは軽くスルーされて、二宮さんは、運転手に声をかけた。

さっとお財布をだして料金を払おうと二宮さんがするから
そのために身を乗り出した分

近いよ…。

運転席と助手席の間に手と顔を近づけると
もちろん私にも…二宮さんは、近くなって

こういう急な距離の縮み方…だめ、対応できない。
なんか、二宮さんって、いい匂いするし。

居酒屋とか鉄板焼きとかだと気づかなかった。
だって、ソースとか油とか違う匂いの方がどうしても勝っちゃうし
ってか
首筋？耳の後ろ？
こんな角度でこの近さで……なんて

……なんか、私ってヨコシマ。

運転手が受け取ろうとする一万円を見て、

「わ、私が払います！」

ふっとヨコシマな考えから我に返った。

タクシー代、この前も出してもらっちゃってるし。
また……貸しといわれても、困る。

貸しばっかり増えたら、困る。

「とりあえず、これで……おつりいいです」

「えっ？ちょっ……」

私がお財布を出す前に、さらっと払ってさらっと降りてしまうんだ。

「ほら、降りるよ？(笑)」

タクシーの屋根に手をかけて
覗き込みながら私を促す。

「……Aちゃん？」

「え、あ、はい……」

覗き込むとかその屋根にかけた手とか腕とか
目が合ったときの表情とか

「タクシー代、割り勘します」

これ以上二宮さんに借りを作ったら
そのまま流されてしまいそう。

「いいよ、別に」

「私が、困ります」

困ります。

二宮さんに流されてしまっては、困るんです。

ふっと笑って「じゃあ、次…」なんて言うから
ほら、借りになっちゃうじゃない。

モダン焼き三分の一とタクシー代半分と
どんどん対等じゃ、なくなっちゃうじゃない。

「…次じゃなくて、今、払います」

借りはモダン焼きだけでいい。

できるだけ対等な位置で
シンプルに二宮さんを考えないと

とっぴな言葉とか無駄な色気とか
いい匂いとか

流されたら、困るんです。