愛のフルコース【伏黒恵】

夏の煩悩 ページ1

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恵の腹筋を触りたい。唐突にそう思った。この不純極まりない欲が沸き上がってきたのは、先程から私を誘うように頻発している言わば"腹チラ"のせいである。何も私のせいではない。

「オイA、いい加減休憩終わりにすんぞ」
「ちょっと待って、あと3チラだけ…」
「バカなこと言ってんじゃねーよ」

一二年合同の体術の訓練。珍しくパンダと手合わせする恵は、流石に暑かったのかTシャツ一枚だった。それがこの頻発している腹チラの要因だ。

勿論真希はお構い無しで私を立ち上がらせ、再び手合わせを再開させる。もっと見ていたかった、恵の腹筋…そんな無念も一瞬で頭から消え去るほど真希の攻撃は早く正確で。集中力を欠いていただけあってあっという間にこてんぱんにされた私は、数分後にはグラウンドに伸びていた。暑い。

どうしてこんな真夏の八月に外で体術やるの。でもあれか、体育館も蒸し暑いか。風があるからまだマシなのかもしれない。

「秒殺でしたね」
「恵…今は私に近寄らないでくれ…手が出るかもしれない」
「あ？」

そんなどうでもいい事を考えていた矢先、珍しく私に歩み寄ってきた恵が至近距離に腰を下ろした。どうやらパンダと真希が取っ組み合いを始めたらしい。それはいいんだけど…さっきの腹チラが脳裏を過ぎり、つい拒否してしまう。

「どういうことですか」
「恵の…その…腹筋が…」

ダメだ、日に当てられて口も回らない。どう説明すればいいかわからなくてしどろもどろになってしまった。これじゃあ推しを目前にして急に呂律回らなくなるオタクじゃん。あながち間違ってはないけど。

「腹筋？」
「そう腹筋！触りたいの！見えてるから！」

完全に頭が働かなくなった。開き直ってそう叫ぶと、は？と眉を顰める恵。ですよね、そうなるよね、でも私悪くないもん、腹チラが悪いんだもん。

「…あんた、よくそんなこと口にできますね」
「私はいつでも思ったことを素直に口に出すタイプだよ」
「それは知ってます」

呆れたように溜め息をついてから、ペットボトルの蓋を開き勢いよく水を飲み干して。そんな仕草さえもかっこいい恵は大罪人だと思う。頬を伝う汗に何だか胸が苦しくなった。やばい、あまりにも好きだ。

「見すぎ」

視線だけこちらに向けた恵が、そう言い放つ。あーもう。一つ一つの言葉や仕草にきゅんきゅんと胸が締め付けられてどうしようもない。


この夏を乗り切るのは、色んな意味で大変そうだ。



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