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突然大声を上げた海斗に、上司が息をのむ。そのままおびえたように立ち上がって、玄関の方に駆け出してしまった。
「…また、あとで話をしよう。今日はいきなり来て悪かったね。」
慌てて玄関先まで出た俺に、大変だね、と憐れむような声を残して、上司は足早に去っていった。
俺は見送りも早々に切り上げて、部屋の中に駆け戻った。もう海斗の大声は聞こえない。代わりに、車いすの激しくきしむあの音が聞こえてきた。
閑「海斗、!」
あごを上げて全身を震わせている海斗に、夢中で駆け寄る。うつろな目の下には、涙の跡がついていた。
閑「なあ、海斗。俺のこと、守ろうとしてくれたんだよな?だから、あんな無理したんだよな?」
本当は、海斗が奇声を上げるなんてまずありえない。発話だけでも、相当苦しいのに。
でも、海斗は全身を使って大きな声を上げた。きっと海斗は、俺が上司にいじめられているように思って、それに怒ってくれたんだ。
閑「ごめん、海斗。辛いこと、いっぱい聞かせちゃったなっ…。」
届かない「ごめん」を口にしながら、俺はただ発作が治まることを祈るしかなかった。
幸い、今回の発作は3分程度で治まった。うつろな目のまま、海斗がこわばった右手を俺の頬にこすりつける。
宮「っ!まぁ、お、るっ、しず、」
閑「…守る?海斗が、俺のこと?」
海斗の体が大きくのけ反って、んっ、と、絞り出すような短い返事が聞こえた。
海斗が、俺を守る。想像もしていなかった言葉に、心が震え出す。涙で光る海斗の目を見つめていると、あぁ、と吐息のような声がもれた。
どうしても、俺はこの優しい光を守りたい。小さくて、でも温かい命の灯火。もし進む先が真っ暗でも、今目の前にある灯火を両手で包んでいられるなら、それで十分だ。
閑「…海斗、俺たち一緒に生きていこう。」
両手で海斗の頬を包み込む。
たしかに、俺は海斗と血のつながった家族ではない。この先どうすればいいのかも、まだ決まってはいない。これが世間的に正しいのかどうかなんて、なおさらわからない。
でも、海斗の頬の温もりに触れたこの手。その細胞の1つ1つが、正解だと叫んでいた。
「灯火」fin.
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おさと(プロフ) - ぷりんさん» ぷりん様、こんばんは!続編のリクエスト、とても嬉しいです😭詳細な内容をありがとうございます!またまた長くお待たせしてしまいますが、どうか気長にお待ちください💦 (2022年9月21日 19時) (レス) id: d73b661cf7 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - →あるサラリーマンには煩いと怒鳴られ殴られる。それでも元太を助けたい一心で諦めずに声を出して喚き続ける海人に救いの手が。優しい通行人が事情に気づいてくれ、救急車を呼んでくれて元太は一命を取り留める。長くてすみませんがどうかよろしくお願いします😭 (2022年9月20日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - →急病人がいること、住所を懸命に声に出すが上手く発音できないので全く伝わらない。このままでは元太が死ぬと思った海人は紙に事情を書いて裸足のまま家を飛び出て、言葉にならない声で助けを求めて叫ぶ。訳の分からない大声を出す様子を見た通行人は皆侮蔑の目を向け (2022年9月20日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - →元太はブラック企業に勤めており、ある日過労から突然心臓発作で呻き声を上げて倒れる。様子がおかしいと気づいた海人が大声で呼びかけるが反応はない。白目を剥き土色になってく元太を見た海人は、救急車を呼ぶため人生初の電話を決意する。自分は耳が聞こえないこと (2022年9月20日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - 遅くなりすみません!「チョコよりあまい」とってもよかったです!書いていただきありがとうございます✨今更なのですが、続編をリクエストしても良いでしょうか?社会人になった2人はルームシェアしていた。海人は相変わらず発音が上手く出来ないが懸命に暮らしていた (2022年9月20日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年8月28日 16時