・ ページ16
Side松倉
元「俺、どんな顔してしめに会えばいい…?」
病院の廊下を歩きながら、元太がつぶやく。俺は何も言えないまま、ひんやりと冷たい白色の床を見つめていた。
しめがレッスン中に倒れたあの日から、今日でまる1週間。一時呼吸が止まってしまったしめは、救急車で運ばれた後も危険な状態だったけれど何とか持ちこたえてくれた。
3日前にしめの目が覚めたって連絡が来ていたけれど、元太はある事情があってなかなかお見舞いに行けなかった。俺も、そんな元太に合わせて病院には行けずじまいだったから、ここに来るのは今日が初めてだ。
倉「…いつも通りで、いればいいんだよ。」
俺の薄っぺらい言葉に、元太が力なく頷く。俺はそれを横目に見ながら、無機質な番号の振られた病室のドアをノックした。
倉「しめ、入っていい?」
ドアの向こうから返事はない。寝てるのかもしれない、と思いながら、恐る恐るドアを開けた。
元「…しめ、」
病室の中に入ると、しめの目は開いていた。昨日までは酸素マスクをしてるって聞いていたけど、今日はそれがチューブの形に変わっている。
倉「…しめ、大丈夫?」
しめは、何も言わない。当たり前だ、大丈夫じゃないからここにいるのに。俺はどんだけバカなことを言っちゃったんだろう。
龍「……ごめん、」
長い沈黙の後、しめの血色の悪い唇が小さく動く。やっと聞けたしめの声を合図に、俺の隣で立ち尽くしていた元太がベッドに近づいた。
元「なんで、黙ってたんだよ。心臓の病気なんて…」
龍「忘れてたんだよ、苦しくなることなんかほとんどなかったし。病気なんて、ないのと一緒だったっ…。」
肩で息をしながら、しめが体にかかっている布団を握りしめる。
しめの言ってることは、ここに来る前俺たちがマネージャーから聞いたことと一緒だった。たしかにしめの心臓には生まれつき問題があったけど、この病気は無症状で終わる人も多いらしい。
それなら、なんでしめが苦しまなくちゃいけないんだ。
悔しくて、やっぱり納得できなくて、俺は思わずこぶしで自分の腿をたたいた。
444人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おさと(プロフ) - ぷりんさん» ぷりん様、こんばんは!続編のリクエスト、とても嬉しいです😭詳細な内容をありがとうございます!またまた長くお待たせしてしまいますが、どうか気長にお待ちください💦 (2022年9月21日 19時) (レス) id: d73b661cf7 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - →あるサラリーマンには煩いと怒鳴られ殴られる。それでも元太を助けたい一心で諦めずに声を出して喚き続ける海人に救いの手が。優しい通行人が事情に気づいてくれ、救急車を呼んでくれて元太は一命を取り留める。長くてすみませんがどうかよろしくお願いします😭 (2022年9月20日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - →急病人がいること、住所を懸命に声に出すが上手く発音できないので全く伝わらない。このままでは元太が死ぬと思った海人は紙に事情を書いて裸足のまま家を飛び出て、言葉にならない声で助けを求めて叫ぶ。訳の分からない大声を出す様子を見た通行人は皆侮蔑の目を向け (2022年9月20日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - →元太はブラック企業に勤めており、ある日過労から突然心臓発作で呻き声を上げて倒れる。様子がおかしいと気づいた海人が大声で呼びかけるが反応はない。白目を剥き土色になってく元太を見た海人は、救急車を呼ぶため人生初の電話を決意する。自分は耳が聞こえないこと (2022年9月20日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - 遅くなりすみません!「チョコよりあまい」とってもよかったです!書いていただきありがとうございます✨今更なのですが、続編をリクエストしても良いでしょうか?社会人になった2人はルームシェアしていた。海人は相変わらず発音が上手く出来ないが懸命に暮らしていた (2022年9月20日 21時) (レス) id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:おさと | 作成日時:2022年8月28日 16時