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元太は、病院に着くとすぐに治療室に運び込まれた。
随分長く待たされた後、処置をしてくれた医者が顔を出した。発作が落ち着いたこと、呼吸状態も改善したこと、しばらく入院になることを淡々と伝えられる。
「お兄さんも、今日はこちらに泊まってください。海斗くんのいるお部屋に、ご案内しますから。」
俺は黙って頭を下げて、すぐに立ち上がった。
元太が搬送されるとき、海斗を家に残して行けないことを伝えると、救急隊の人が後から海斗のことも搬送してくれた。本当にありがたい。
案内の人についていくと、海斗は小さな個室にいた。不随意運動がいつもよりひどい。手足だけじゃなく、ときどきぐっと首を反らせる姿が痛々しかった。
閑「海斗、ごめんな。俺のせいで、無理させちゃったな。」
きっと、海斗は俺よりずっと早く元太の発作に気づいていた。絞り出すような大声も、手足を一生懸命動かしていたのも、俺を起こすための必死の行動だったはずだ。
閑「…海斗。俺、兄ちゃん失格だな。」
最悪だ、最低だと自分を責める気持ちのやり場がなくて、またいつもの癖で左腕の皮をつねる。すると、そこに海斗の拳が割り込んできた。
宮「…ん、っうぅ!」
普段は優しい海斗の目が、突然吊り上がる。今の手の動きは、不随意運動じゃない。はっきり意思のある動きだと、俺にはよくわかった。
宮「っあ、ぅあ!」
海斗の拳に押しのけられて左腕から右手を離すと、つままれた痕の残る自分の腕があらわになる。俺はそれを見て、思わずぎょっとした。
ずっと筋肉質だと思っていた俺の腕は、思っていたよりずっと細かった。筋肉が落ちて骨と皮だけになった貧相な腕を見つめていると、あぁ、と小さな声がもれる。
かわいそうだ、と思った。初めて、自分のことを。
俺は、いつからこんなにボロボロだったんだろう?そんなこともわからないなんて、誰が見ても普通にかわいそうなやつじゃないか。
母さん、ごめんなさい。俺、ちゃんとかわいそうな人間です。あなたみたいに最後まで弱さを見せないような人には、多分なれません。
でも、生きていくから。情けない、ボロボロの俺だけど、それでも弟たちと生きるから。だから、ごめんなさい。
―これからは“俺”を受け入れて生きる俺を、どうか許してください
「それでも、生きる」fin.
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おさと(プロフ) - ましろさん» ましろ様、こんばんは!なんて嬉しいお言葉…!本当に、本当にありがとうございます😭相変わらずダメダメな作者ですが、今後ともよろしくお願いいたします。 (2022年10月9日 18時) (レス) id: d4db3ebcdb (このIDを非表示/違反報告)
ましろ - おさと様、本当に本当にありがとうございます!とってもとっても素敵です😭拙いリクをこんなにも素晴らしいお話にしていただけて感無量です...おさと様と出会えて作品を読ませていただけて幸せです...これからも作品を本当に楽しみにしています!大好きです!! (2022年10月8日 21時) (レス) @page25 id: 7d488f5410 (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - ぺえさん» ぺえ様、今回も素敵なリクエストをありがとうございました!いつもコメントありがとうございます。本当に励みになります😭よければぜひ、今後もお付き合いいただければ嬉しいです! (2022年10月5日 22時) (レス) id: 31d1894405 (このIDを非表示/違反報告)
ぺえ(プロフ) - リクエスト書いていただきありがとうございました!!おさと様の作品ほんとに大好きなので、これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月4日 21時) (レス) @page24 id: 8c7e5fe0be (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - 〇〇さん» ○○様、コメントありがとうございます!嬉しすぎて、リアルに泣いてます😭良い実習となるよう、また目標のご職業に就けるよう心から応援しております!どうかお体に気をつけて頑張ってください!! (2022年10月1日 18時) (レス) id: 31d1894405 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年9月24日 20時