S.tiger【病系短編集】15

●次の春へ（橙×青赤） ページ44

まちゅ×げんた・ちゃか

・らら様リクエスト

・notリアル設定

・S.tiger【病系短編集】14「つなぐ」の続編(新人看護師として奮闘する元太くんのお話)

・今回のお話は、全て元太くん視点で進みます。









元「やっぱぁ、おれ、向いてない！かんご、しぃ！」


グラスを置いて、テーブルに思いっきり両腕を投げ出す。ろれつが回ってないことも周りの視線が集まってることも、なんとなく感じてるけど正味どうでもいい。




龍「だから言ったじゃん。新卒1年目で救急は大変だよって。」


あきれ顔で俺からグラスを遠ざけてるこの人は、俺が学生時代の実習で散々お世話になった人。



…そして、俺のたった1人のお兄ちゃんの“最期”を知ってる人。




龍「うちの病院じゃ、新卒が救急に配属されることはないって。そう言ったら、別のとこに就職するって言ったの、元太だろ？」

元「お説教は受け付けましぇーん。」

龍「はいはい、わかりました。」


もう帰るよ、酔っ払い、なんて面倒くさそうに言いながら、無理やり俺を立たせようとする。パパとほとんど年の変わらない人に支えられながら、俺はいつもの居酒屋を後にすることになった。




元「…なんか、看護してる気しないんすよー。初療には入れねえし、独り立ちもまだ無理。何が分かんないのかもわかんないまま、毎日怒鳴られて…」

龍「あー、あるあるだね。」


のんびりした声が、白い息になって黒い空に消える。救急は基本早口で声のデカい人が多いのに、この人はどうなってるんだろう。



龍「でも、元太は頑張ってると思うよ。春からもう半年……いや、8か月くらい？すごいじゃん、もうすぐ勤続１年だよ。偉いよ。」

元「……そうなんすよ！おれ、偉いんすよ！」


俺より位置の低い肩に顔を押し付けながら、勢いよく白い息を吐く。酒くさ、と笑う息も、やっぱり白かった。




龍「…愚痴なら、またいつでも聞くから。だから、頼むから、つぶれんなよ。」



せっかく、つながった命なんだから。


やけに真剣な声で言われたその言葉には聞こえないふりをして、俺はやっとつかまったタクシーに乗り込んだ。

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