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Side宮近
海「え、待って!なんで泣くの!?」
ひっくり返った海人の声を聞いて、俺は初めて自分が泣いていることに気づいた。何でって言われても、困る。俺だって上手く説明できない。
海「…ちょっと待ってて。」
何を思ったのか、海人が俺の肩を優しく叩いてどこかに行ってしまった。その後姿を見ながら、制服の袖で涙を拭く。
変わったのは、海人じゃない。時々不器用だけど一生懸命な海人の優しさは、昔から何も変わってない。
変わったのは、俺の方だ。他の誰でもなく、一番自分を可哀そうだと思ってるのは俺自身だから。わかってる。俺って、結構ムダにプライドが高い人間なんだ。色んなことが出来なくなった自分を認められなくて、だから周りの目も気になってしょうがない。
宮「…ごめんっ、」
海「なにが?」
すぐ近くで声がして、俺は慌てて目元から袖口を離した。いつの間にか戻ってきていた海人と俺の間には、見慣れない車いすが置いてある。
海「…ごめん。嫌がるかなって思ったんだけど、保健室から借りてきた。お前、ちょっと無理しすぎだから。」
本気で申し訳なさそうな顔をされたら、もう意地も張れなくなる。俺は大人しく、車いすに座った。
海「…お前も、変わんないよな。」
宮「え?」
海「俺、知ってんだからな。こそこそ隠れて痛み止め飲んでんの。別に隠すことないのにさ、ムダにプライド高すぎ。」
俺は、何も言い返せなかった。珍しく海人に言い負かされて黙り込んていると、頭の上からまた声が降ってくる。
海「でも、俺は嬉しい。変わんないでいてくれて。」
宮「…へ、」
海「俺、ビビッて一回もお見舞いに行けなかったから。会わないうちに変わってたらどうしようって…」
震える声を聞いて、俺は久しぶりに思い出した。そうだ、海人はこう見えてなかなか繊細なやつだった。
宮「…性格まで、変えられてたまるかっての。」
鼻をすする、小さな音が聞こえる。海人も泣いているのかもしれない。後ろに回り込んだ海人が、ゆっくりと車いすを押し始めた。
海「明日も、駐車場まで迎えに行く。」
宮「…うん。」
前を向いたまま、相変わらず雑な返事をしてしまう。そこからはお互い何も言わないで、変わり映えのしない学校の廊下を、ただ静かに進んでいた。
「変わらないもの」fin.
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おさと(プロフ) - ユルピさん» ユルピ様、コメントありがとうございます!素敵なリクエストをいただき、ありがとうございました!よろしければ、最後までお付き合いいただけますと幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - るるちゃさん» るるちゃ様、ご無沙汰しております!もちろん覚えております!!素敵なリクエストを、本当にありがとうございました。読み返していただいていたとのこと、本当に嬉しいです。最後までお楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
ユルピ - 如恵留くんのリハビリのお話見ました!とても感動的で心が暖かくなりました!この小説が最後になるのは寂しいですが、残りも頑張ってください! (2022年11月26日 20時) (レス) @page27 id: 05904f8bd6 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 楽しみになっていました。暇な時に何回も何回も読み直し〜なども良くやっていました(笑)今後もそれを続けていきたいと思います。残りの作品を目一杯楽しみます。本当に本当にこの作品が今までにないくらい大好きです。おさとさんありがとうございました!! (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 久しぶりに見させて頂きました。覚えているかは分かりませんが何回かリクエストさせて頂いた元「kai」「海輝」という者です。久しぶりに占いツクールを見てこの作品に辿り着いたのですが終わってしまうと思うと凄く寂しいです。沢山リクエストさせて頂いて毎日の (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年11月12日 16時