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Side松倉
裏に捌けると、俺はすぐに椅子に座り込んだ。いつもなら、スタッフさんに衣装を脱がせてもらったりしてる間に、メンバーは先に楽屋に行ってしまう。
でも、今日はしめが待っててくれた。
龍「…楽屋、連れてってあげるよ。」
そう言って、しめが俺に背中を向ける。本当はもうおんぶもしんどいんだよな、と思ったけど、もうこういう機会もないかもしれない。思い直した俺は、小さい背中にまた体を預けた。
龍「…気持ち、変わらない?」
倉「うん。もう、これで終わり。アイドルの松倉海斗は、卒業する。」
龍「でも、出来ることはまだあるじゃん。踊れなくても雑誌に出るとか、」
倉「ごめん、もう決めたから。これから変わってく体は、俺がファンの人に見せたいものとは違う。」
そうだよね、とつぶやくしめの表情は、背中の上からじゃわからない。俺は、体に力を入れ直した。
倉「みんな、びっくりするかな?」
龍「しないよ、するわけない。みんな、もう気づいてたよ。まつくが今回のライブ、最後にしようとしてたの。だからみんな、必死だったんじゃん。」
それもそうか、と思いながら、俺は通路の先をぼんやり見ていた。しめにしか言ってなかった“卒業”の決意。楽屋に戻ったら、それを初めてみんなにも言葉で伝えることになる。
龍「…これからも、みんなで会おうね。」
しめの声が、震える。楽屋のドアが、少しずつ近づいてきた。
龍「車だって出すし、色んなとこ行こうよ。京本会でも集まるよ。トラビスでも、2人だけでも、たくさん一緒にいよう?まだまだ、一緒にいようよ。」
しめの声は、どんどん潤んでいった。嘘でも、頷けばよかったのかもしれない。でも俺は、やっぱりしめに嘘はつきたくなかった。
倉「…俺、すげえ楽しかったよ。」
かわりに精一杯の気持ちを言葉にしたのと同時に、楽屋の前に着いた。しめが、ドアの前でしゃがみこむ。
龍「…俺も。すごく、楽しかった。」
倉「……そっか。」
龍「ありがとう。出会ってくれて、俺たちのとこに来てくれてっ…」
俺は、無言で両足を床に下ろした。震えるしめの背中から離れて、精一杯の力で床を踏みしめる。
倉「…ありがとう。」
後ろは向かなかった。俺はそのまま、目の前のドアをゆっくりと押し開けた。
「きっと最後の『ありがとう』」fin.
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おさと(プロフ) - ユルピさん» ユルピ様、コメントありがとうございます!素敵なリクエストをいただき、ありがとうございました!よろしければ、最後までお付き合いいただけますと幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - るるちゃさん» るるちゃ様、ご無沙汰しております!もちろん覚えております!!素敵なリクエストを、本当にありがとうございました。読み返していただいていたとのこと、本当に嬉しいです。最後までお楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
ユルピ - 如恵留くんのリハビリのお話見ました!とても感動的で心が暖かくなりました!この小説が最後になるのは寂しいですが、残りも頑張ってください! (2022年11月26日 20時) (レス) @page27 id: 05904f8bd6 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 楽しみになっていました。暇な時に何回も何回も読み直し〜なども良くやっていました(笑)今後もそれを続けていきたいと思います。残りの作品を目一杯楽しみます。本当に本当にこの作品が今までにないくらい大好きです。おさとさんありがとうございました!! (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 久しぶりに見させて頂きました。覚えているかは分かりませんが何回かリクエストさせて頂いた元「kai」「海輝」という者です。久しぶりに占いツクールを見てこの作品に辿り着いたのですが終わってしまうと思うと凄く寂しいです。沢山リクエストさせて頂いて毎日の (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年11月12日 16時