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Side元太
息が苦しい。だから、ここは多分天国じゃない。
また命拾いしたんだな、なんて思いながら、俺は重たいまぶたを持ち上げた。
如「…っ元太!」
飽きるくらい聞いてきた声がして、目だけ動かす。寝起きのまま家を出たのか、兄ちゃんは眼鏡をかけてて寝ぐせもついたままだ。
如「元太、薬忘れていったでしょ?だから追いかけて、そしたら…」
なるほど。そういうことね。兄ちゃんの手にある薬のケースを見て納得するけど、酸素マスクのせいで声が出せない。
「如恵留くん、頑張ってくれたんだよ。心肺蘇生して、元太くんのこと助けてくれたの。」
いつの間に来てたのか、おなじみの看護師さんが優しく俺の肩をたたく。えっ、て声が出て、吐いた息がマスクの中に広がった。
如「いざやるってなったら、すごく慌てました。手も震えて……こんなんで医師志望なんて、笑われちゃいますね。」
兄ちゃんの言葉に、看護師さんが笑顔で首を横に振る。それを見て、俺だけが置いてけぼりの気分になった。
―どういうこと?兄ちゃん、お医者さんになりたいの?
俺の視線に気づいたのか、兄ちゃんが「あ、」と小さな声を出す。照れくさそうに一瞬目を伏せて、それから俺を真っすぐに見つめてきた。
如「合格したら言おうと思ってたんだけど…。俺、医者になりたいの。今は医学部目指して、勉強してる。」
兄ちゃんの手が、俺の手に重なる。小刻みに震えてる感覚が、俺にも伝わってきた。
如「勝手でごめん。でも、これが俺のやりたいこと。寝られなくても、食べられなくても、どんなに辛くても、俺は医者になりたい。元太の病気を、俺が治したい。」
力強い兄ちゃんの目から、涙が落ちる。気づいたら俺も泣いてて、耳に温かい涙が流れてきた。
めちゃくちゃ被害妄想だったんだ。俺が邪魔なんて、兄ちゃんは思ってなかった。
如「ちょっと、泣いたら苦しくなるでしょ。…俺が夢叶えるまで、元太には元気でいてもらわなきゃいけないんだからね。」
わざとらしく腕組みをする兄ちゃんに、大きく頷いてみせる。
俺は、兄ちゃんみたいに立派な進路は描けない。でも、兄ちゃんが夢を叶えて、俺はちゃんとそれを見ていて。そして、いつか俺も目標を見つけて、無茶をしながらでも努力して。そんな未来が、すごく欲しい。
今、俺が抱いたこの夢。これだけは、絶対に信じていたいって、そう強く思った。
「君とみる夢」fin.
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おさと(プロフ) - ユルピさん» ユルピ様、コメントありがとうございます!素敵なリクエストをいただき、ありがとうございました!よろしければ、最後までお付き合いいただけますと幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - るるちゃさん» るるちゃ様、ご無沙汰しております!もちろん覚えております!!素敵なリクエストを、本当にありがとうございました。読み返していただいていたとのこと、本当に嬉しいです。最後までお楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
ユルピ - 如恵留くんのリハビリのお話見ました!とても感動的で心が暖かくなりました!この小説が最後になるのは寂しいですが、残りも頑張ってください! (2022年11月26日 20時) (レス) @page27 id: 05904f8bd6 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 楽しみになっていました。暇な時に何回も何回も読み直し〜なども良くやっていました(笑)今後もそれを続けていきたいと思います。残りの作品を目一杯楽しみます。本当に本当にこの作品が今までにないくらい大好きです。おさとさんありがとうございました!! (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 久しぶりに見させて頂きました。覚えているかは分かりませんが何回かリクエストさせて頂いた元「kai」「海輝」という者です。久しぶりに占いツクールを見てこの作品に辿り着いたのですが終わってしまうと思うと凄く寂しいです。沢山リクエストさせて頂いて毎日の (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年11月12日 16時