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Side如恵留
次の日は、腹痛との戦いだった。水は飲めるようになったけど食欲は戻らなくて、ほんの少しの動作にも体が疲れてしまう。
昼夜関係なく眠ってばかりで、いつの間にかさらに日をまたいでいたことにも、しめが来てくれていたことにも、気づくのが遅れてしまった。
目を覚ますとカーテンの向こうが明るくなっていて、ほぼ付きっきりで看病してくれていた海人の姿が見えなくなっていた。キッチンから聞こえる話し声に、横になったまま耳を澄ます。
如「……ん?」
会話の内容はよく聞こえないけど、なんとなくしめと海人が小競り合いをしているような感じがする。心配な気持ちが半分、2人が元気なことに安心する気持ちが半分の状態で、俺は聞き耳を立てていた。
海「…あ、如恵留くん。起きてたんだ。」
龍「如恵留、体調どう?」
しばらくして、2人が何食わぬ顔で部屋に入ってきた。だいぶいいよ、と返事をすれば、わかりやすく2人の表情が緩む。
龍「リンゴ買ってきたんだけどさ、よかったら食べてみない?」
如「え、いいの?」
もちろん、と頷いて、しめがいそいそと立ち上がる。その後姿を、海人が若干複雑そうな顔で見送っていた。
龍「…じゃーん!」
少ししてしめが持ってきたのは、いびつな形のリンゴが一切れのった皿と、すりおろしたリンゴらしきものが入った小鉢だった。戸惑っている俺を見て、しめが口を開く。
龍「うさぎの形にしたら食欲出るかなと思って。ほんとは3匹いたんだけど…。」
海「いや、見た目より食べやすい方がいいんだって!絶対すりおろし!」
どうやら、しめがウサギ形にしたリンゴは二切れ分、海人の手にかけられてしまったらしい。
俺から見ればどっちもどっちで、しめのリンゴは到底ウサギには見えないし、海人もすっている途中で飽きたのか随分ごろっとしたリンゴのかけらが入っている。
二者二様のぶきっちょな優しさに、つい頬が緩んだ。
海「あ、笑った!」
龍「ほら、食べて食べて!」
如「あぁ、うん。いただきます…。」
…さて、どっちのリンゴから食べるべきか。
2人のキラキラした目に見つめられて、ほっこり一転。俺はかなりの難題に頭を悩ませることになってしまった。
「ぶきっちょ林檎」fin.
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おさと(プロフ) - ユルピさん» ユルピ様、コメントありがとうございます!素敵なリクエストをいただき、ありがとうございました!よろしければ、最後までお付き合いいただけますと幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - るるちゃさん» るるちゃ様、ご無沙汰しております!もちろん覚えております!!素敵なリクエストを、本当にありがとうございました。読み返していただいていたとのこと、本当に嬉しいです。最後までお楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
ユルピ - 如恵留くんのリハビリのお話見ました!とても感動的で心が暖かくなりました!この小説が最後になるのは寂しいですが、残りも頑張ってください! (2022年11月26日 20時) (レス) @page27 id: 05904f8bd6 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 楽しみになっていました。暇な時に何回も何回も読み直し〜なども良くやっていました(笑)今後もそれを続けていきたいと思います。残りの作品を目一杯楽しみます。本当に本当にこの作品が今までにないくらい大好きです。おさとさんありがとうございました!! (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 久しぶりに見させて頂きました。覚えているかは分かりませんが何回かリクエストさせて頂いた元「kai」「海輝」という者です。久しぶりに占いツクールを見てこの作品に辿り着いたのですが終わってしまうと思うと凄く寂しいです。沢山リクエストさせて頂いて毎日の (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年11月12日 16時