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Side松倉
倉「元太、どうした?トイレ?」
元「え?いや、ちょっと喉乾いて…」
倉「俺もってくるから、座ってていいよ。」
お茶でいい?と聞くと、元太は黙って頷いた。テーブルに立てかけていた2本の杖から、元太の手が離れる。
通院でのリハビリは続いているけれど、無事退院した元太は事故前から住んでいたこの部屋に戻ってきた。実家に帰る話もあったらしいけど、断ったらしい。
病院の人が「中等度」って呼ぶレベルの麻痺を両足に抱えることになった元太は、家では両手に杖、外に出なきゃいけないときは車いすを使って移動する生活だ。
倉「…なあ、元太。部屋、引っ越さない?」
元「え?なんで、」
倉「もうちょっとさ、杖ついて歩きやすい部屋の方がよくない?俺も一緒に考えるし、予算だって…」
元「……あー」
うんざりしたような、ほんの少しいら立ちが混じった声を出して、元太が乱暴に髪をかき上げる。今はこの話をする気分じゃなかったんだな、と俺は一瞬で反省した。
倉「ごめん…。」
元「…いや、俺の方こそ。」
無言になった2人の間に、気まずい空気が流れる。昔は無言の時間すら、居心地がよかったのに。こうやってぎくしゃくした感じになることが、ここ最近かなり増えてしまった。
元「…俺、もう寝る。」
倉「あぁ、うん。おやすみ…。」
両手に持った杖をついて、元太がゆっくりと歩きだす。何歩か進んだところで、その足が止まった。
元「…いつまで、ここにいんの?」
倉「え、?」
元「……あ、いや。雨、早く止んでほしいなって。」
それだけ言うと、元太はまた歩き始めた。トン、トン、と杖が床につく音を聞きながら、俺はその後姿を呆然と見つめていた。
元太は聞こえてないと思ってるのかもしれないけど、俺の耳にははっきり届いていしまった。
“いつまで、ここにいんの?”
嫌なんだろうか、元太は。俺が、近くにいるのが。せめて近くで元太の生活を支えてやりたいと思っていたけど、それは間違いなのか?
何もわからなくなった俺の頭に、ただ雨の降る音だけがしとしとと響いていた。
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おさと(プロフ) - ユルピさん» ユルピ様、コメントありがとうございます!素敵なリクエストをいただき、ありがとうございました!よろしければ、最後までお付き合いいただけますと幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - るるちゃさん» るるちゃ様、ご無沙汰しております!もちろん覚えております!!素敵なリクエストを、本当にありがとうございました。読み返していただいていたとのこと、本当に嬉しいです。最後までお楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです! (2022年11月27日 19時) (レス) id: 9a83433ded (このIDを非表示/違反報告)
ユルピ - 如恵留くんのリハビリのお話見ました!とても感動的で心が暖かくなりました!この小説が最後になるのは寂しいですが、残りも頑張ってください! (2022年11月26日 20時) (レス) @page27 id: 05904f8bd6 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 楽しみになっていました。暇な時に何回も何回も読み直し〜なども良くやっていました(笑)今後もそれを続けていきたいと思います。残りの作品を目一杯楽しみます。本当に本当にこの作品が今までにないくらい大好きです。おさとさんありがとうございました!! (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
るるちゃ(プロフ) - 久しぶりに見させて頂きました。覚えているかは分かりませんが何回かリクエストさせて頂いた元「kai」「海輝」という者です。久しぶりに占いツクールを見てこの作品に辿り着いたのですが終わってしまうと思うと凄く寂しいです。沢山リクエストさせて頂いて毎日の (2022年11月26日 20時) (レス) id: 08c89fe430 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2022年11月12日 16時