#49 ページ49
.
彼の手によって、
動かされた私の手の中で光るもの。
『此れは……』
「綺麗だろう?
暖め続けていた甲斐があったよ。」
街灯の光を反射し、又その光の一部が屈折する事によって様々な色彩を露にしていた。
___ガラス細工のシャチ。
白と黒が基調としたシャチが魚と共に海原を泳ぐ姿をモチーフとした小物である。
壁の装飾、置物としても…。
否、光さえ在れば映える代物だ。
「君にプレゼントだよ、A。」
『…本当に、いいんですか?』
彼は満足そうに頷いた。
大切なものとなる代物を、大事に胸に抱える。
『…ありがとう、太宰さん。』
また一つ、暖かいものを貰ってしまった。
彼が私の頬に手を触れ、顔をあげられる。
鷲色に映る、
私の姿が大きくなっていく。
静かに受け入れて瞼を閉じる。
啄むような接吻だった。
「気に入ってくれて善かった。」
彼に私は勝てない。
最初からそうだったのかもしれない。
狙われた獲物はもう喰われる道しか無いのだろうか。
……其でも良い。
彼になら。
熱の籠る目を細め、
意地悪そうな笑みを彼は浮かべて
「子供に興味あ__」
『探偵社へ苦情のメール入れますよ。』
「御免まだ早かったよ。許して。」
絡められる指と指。
伝わる程よい体温が夜の冷気を忘れさせるには充分すぎる。
遠い将来の噺をし始める彼に呆れながらも、嬉しかった。
__好きでは表せない。
行くべきだった黒が誘う通路へ目を留める。
『…私が出てくるまで、
待っていてくれますか。』
絡んでいた指が大きな手に包まれる。
通路を見ていた視線を彼に向けた。
真剣な目だ。
心強い声色で彼は告げる。
「待つよ。
でも早くしないと、
__私が迎えに行くからね。」
コツン、と額が重なる。
頬を擽る蓬髪にくすぐったくて、
彼の言葉が何度も脳内に響き残った感覚がして、
くすりと微弱な笑いが洩れた。
『約束ですよ。』
「嗚呼、約束さ。」
.
.
マフィアビル最上層にて。
嘗て器と成っていたものは記録なき器と成り果て、微笑む医者の目に映し出された。
帽子を胸に抱え幹部は姿なき部下に対しての処分を待っている。
「…お疲れ様。戻っていいよ。」
334人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
米粉めこ - 完結おめでとうございます!とても面白くて一気読みしました! (11月29日 2時) (レス) @page50 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
つくも(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2021年12月20日 16時) (レス) @page50 id: 3b5cd0d846 (このIDを非表示/違反報告)
amane(プロフ) - 一気読みしました。とても面白かったです!完結おめでとうございます。 (2021年12月20日 1時) (レス) @page50 id: 9f53b410f9 (このIDを非表示/違反報告)
すい(プロフ) - 完結おめでとうございます!!!読んでいてとても楽しかったです!!! (2021年12月17日 6時) (レス) id: b0014f1469 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2021年12月16日 8時) (レス) @page50 id: 813026887d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白氷 | 作成日時:2021年10月1日 22時