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『逆を使えと云いたいんですよね。』
こつん、こつん。
指で軽く自らのこめかみを突く。
彼は満足そうに頷きくすりと笑う。
作戦が推測通りにいった時の顔であることを忘れはしない。
「正解。良くできました。
今の君の力ならできることを思う存分使い給え。」
_情報を持つ者が全ての局面を乱せば良い。
既に少しずつだが、無意識のうちに思考の片隅で算段を立てていた。
「私のAは優秀だ。
成長が感じられる。」
『まだ貴方の所有物ではありません。』
意外そうに瞬きをした彼。
其は本当に一瞬のことで、真意の掴めぬ微笑をほんの僅かに浮かべていた。
私の顔を覗き込むように近寄り、
存在を確かめるように頬へ冷える指を滑らせながら言葉を投げる。
「まだ折れないのかい?」
滑らせる指はごく自然な流れで私の唇に触れ止まる。
その唇の口角を吊り上げ私は困ったように云う。
『寧ろ、貴方の傍に私を置けば迷惑になりますよ。』
「其の迷惑が良いのだよ。
味気があって癖になるのだから。」
『相変わらず変わった趣向をお持ちのようで。』
君とたいして変わらないさ、と彼は目を細め髪を撫でた。
ゆらりと揺れ、肩にかかった髪がはさりと落ちる。
「じゃあ、」
彼は両腕を広げた。
「君は…__私を受け入れてくれるかな。」
何もかも赦す穏やかな目。
「A」
名前を呼ばれた。
不安の滲む微笑を浮かべて。
裏では幼い感情が揺らいでいる。
触れれば呆気もなく崩れてしまうような顔をしないで欲しい。
彼の幼い心は大人という器に閉じ込められているのだ。彼の居た世界を経験していた私からすれば、
___”私と同じだ”
何時かの声が耳を擽った気がした。
何故皆気づかない。
何故知りもしないのだ。
…理由は一つ。
誰だって知る術も無いのだ。
彼が何に苦しんでいるのかを。
彼が何者かと。
だから異常だ。
…誰だって本当の自分に気づきやしないのだから。
ずっとこの事は考えていた。
石のような心だとしても”自分が気づかなくても相手は気づき、磨いてくれる”。
根拠は言うまでもない。
胸に抱いたこの感情は嘘をつかない。
私は彼を___
『…___』
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米粉めこ - 完結おめでとうございます!とても面白くて一気読みしました! (11月29日 2時) (レス) @page50 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
つくも(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2021年12月20日 16時) (レス) @page50 id: 3b5cd0d846 (このIDを非表示/違反報告)
amane(プロフ) - 一気読みしました。とても面白かったです!完結おめでとうございます。 (2021年12月20日 1時) (レス) @page50 id: 9f53b410f9 (このIDを非表示/違反報告)
すい(プロフ) - 完結おめでとうございます!!!読んでいてとても楽しかったです!!! (2021年12月17日 6時) (レス) id: b0014f1469 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2021年12月16日 8時) (レス) @page50 id: 813026887d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白氷 | 作成日時:2021年10月1日 22時