個性【魅了】の人間タラシ (ページ4)

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隣の芝生は青いページ4

仏壇は大きな形は保っているものの、角の木片は畳の上に散らばっている。とても大きな仏壇のため、体の上から移動するにも数分を要した。

全身に大きな痛みが走る、痛みがあるということは神経まではやられていないはずだ。

自分で自分に希望を持たせながら、救急車を呼ぶ祖母の姿を見る。ああ、後日電話がかかってきて、仏壇の関係者に毎日のように頭を下げられるのか、憂鬱だ

救急隊員は案外直ぐに駆けつけてきて、直ぐに俺を運んだ

「この子は家の跡取りだ、絶対に救ってくれ」

少しは俺を心配してくれると期待したが、俺自身ではなく跡取りの俺が好きみたいだった。

俺はため息をする気も起きず、担架に運ばれる。

救急車の後ろの扉が閉じると、専門用語が飛び交った。クラッシュ症候群という聞き慣れないカタカナの言葉が聞こえる

途中、質問もされた、意識はあるか、痺れがあるか、痛みはあるか。それを1つずつ答えた

救急隊員は、気の毒そうな顔色をしていた。

ーーー

目が覚めると、開かれた窓から春の陽気な風が流れ込んできた

寝具の横に座っているのは仏壇屋と側近、謝罪しに来たのだろう、ただし父親の姿はなかった

診断の結果、後遺症は特に残らず痛みはあるものの痛み止めを服用したら何とかなった。不幸中の幸いだった

仏壇屋の謝罪とお見舞いの品を受け取ると、側近に顔を向けた

「なにか先程の方にご不満がありましたか？」

『それは全く気にしてない、ただ、この家は異常だ』

1度、側近は黙った

「きっと疲れてるんですよ、ここには中庭があるみたいです、気分転換をしましょう」

そう言い、俺を外に連れ出した

ーーー

車椅子で運ばれながら、木漏れ日が注ぐコンクリートの道を前へ行く、大きな広葉樹は風に吹かれて葉を散らしていた。

側近は俺に気を使いつつ、丁寧に車椅子を押してくれている。

木々を抜けると、広々とした芝生の庭が広がっている。天気がいいこともあってか家族連れだったり、カップルだったりと様々な患者が集っていた。

夫人に折り鶴を渡す幼児、ピッタリとくっつく老夫婦、子供がカラカラと笑い、走る乾いた音

俺は思わず見とれてしまった。今まで見ていた景色とは全く違うものに見えたのだ。あんな窮屈な日本家屋とは違う

『羨ましい』

「そうですね……Aさんは若いので、すぐに治りますよ」

側近は微笑みながら言った、ああ、全く意味を汲み取って貰えなかった。もうどうでもいい。