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「ゆきちゃーん…」
鎮静剤の影響もあってか、まだすやすやと眠り続けるゆきちゃん。
病衣の袖口から見える痛々しい痣の数々。きっと目に見える傷以上に心の傷は多い。
目に見える傷は正しい治療をすれば痛みも傷跡も消える。
でも心はそう簡単に治らない。
この数年、精神科医としてたくさんの患者さんと出会った。
今は仕事に復帰して元の生活に戻れている人もいれば、何年も何年も頑張って自分の心に向き合い続けている人もいる。
……助けてあげられなかった人もいる。
静かに眠るこの子に、自分は何ができるのだろう。
今まで俺が担当してきた患者さんはいちばん若くて高校三年生。患者さんを比べるつもりはないし、助けたいという気持ちもみんな変わらない。
でも、どうしても今まで接してきた患者さんとこの子は違うと思ってしまう自分がいた。
年齢層も、ここに来た経緯も、なにもかもが初めてのパターンでまだ未知なところも沢山ある。
「……きみには、なにが見えてるの？」
「…ぅ、やぁ……」
「ゆきちゃん、？…ゆきちゃん！」
さっきまで静かに眠っていたゆきちゃんが急にうなされ始めた。
「やぁ、ごめ、、さぃ…」
「ゆきちゃん、大丈夫だよ。1回起きようか、ね？大丈夫大丈夫」
リクライニングを起こしてまだ覚醒しきってないゆきちゃんをこっちに呼び戻す。
「大丈夫、ほらもう大丈夫でしょ？ゆーっくり息しよっか」
俺に合わせて深呼吸をさせるとようやく目が合った。
「…ふっか！状況は？」
ナースコールを押したら駆けつけてくれた櫻井先生に一部始終を話す。
「いきなり魘されて少し過呼吸になっていたのでリクライニングを上げて呼吸指導をしました。今はさっきよりも落ち着いてます。」
「おっけー。…ゆきちゃん怖かったね、もう大丈夫だ。」
「ゅ、き、？」
あそうじゃん、まだ言ってないじゃん。わら
「ゆきちゃんっていうのはね、きみのあだ名！雪が好きなのかなーって思って先生たちでつけたの。
先生たち、ゆきちゃんって呼んでもいい？？」
不思議そうな顔をしていたけどちょっと説明すれば分かってくれたみたいで俺の問いかけにも小さく頷いてくれた。
「ちなみに俺のあだ名はふっかっていうの！ふっかせんせーって呼んでね」
「…ふっ、かせんせ」
「そう！また今度ほかの先生も紹介するね」
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作者名：Yurinoya | 作成日時：2023年6月24日 23時
