検索窓
今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:1,531 hit

5 ページ5

.









一目惚れだった。









流星、と俺の隣を見て笑う彼女を見て、
体に電流が走ったみたいな感覚。







あの頃の俺は若くて、ただ無邪気に追い掛けた









「望、私ね望のこと」






すき。









すげえ嬉しくて男やのに思わず泣いてしまって。


そんな俺をAちゃんは笑いながら浴衣の袖で涙を拭ってくれた。




やっと、俺んもんになった。



絶対離さへん、なんてあの日の花火に誓った。









.









彼女は泣いていた。






「のぞむ、すき」









仕事がだんだん忙しくなってきて、俺自身に人気が出てきたのもひしひしと感じてきたとき、

事務所に告げられた「東京に行け」という指示





断れるはず、なかった。




この仕事に、人生をかけているのは事実で、

やっと。今ようやく波に乗れそう、という所で。




彼女がいるから、東京には行けません。






なんて通用しない。

メンバー皆、色んなものを懸けてて、犠牲にしてきて、ようやく掴んだデビューを。




俺ひとりの我儘で、壊したくない。






けど、



彼女の泣き顔なんて見てしまえば、昨日まで固まってたはずの決意なんてあっという間に崩れてゆく









「望、いかんといて」





これで正しかったのか、さえ思えてきてしまう自分が情けなくて。それでも、その手を離したくないのは事実で。









「ごめんな、」



「毎日電話する、絶対別れへんよ」



「絶対、迎えに行くから、待ってて」



「俺を信じて。」









うん、って
絶対待ってる、って
あの時の彼女の顔を俺は絶対に忘れないんだろう。








それからがむしゃらにただ前だけを見て走ってきて、少しずつ軌道に乗り始めて、


あと少し。もう少し。




頑張る気力はいつも君だった









.









.









「望、」



「Aが、事故、ったって…」








流星のこんな顔は見たこと無かった









手のひらの中にあったはずの携帯電話が、


音も立てず、静かに堕ちていった。




割れたそれは、もう、きっと元には戻らない






.

6→←4



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (8 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
11人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ゆき | 作成日時:2017年3月26日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。