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一目惚れだった。
流星、と俺の隣を見て笑う彼女を見て、
体に電流が走ったみたいな感覚。
あの頃の俺は若くて、ただ無邪気に追い掛けた
「望、私ね望のこと」
すき。
すげえ嬉しくて男やのに思わず泣いてしまって。
そんな俺をAちゃんは笑いながら浴衣の袖で涙を拭ってくれた。
やっと、俺んもんになった。
絶対離さへん、なんてあの日の花火に誓った。
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彼女は泣いていた。
「のぞむ、すき」
仕事がだんだん忙しくなってきて、俺自身に人気が出てきたのもひしひしと感じてきたとき、
事務所に告げられた「東京に行け」という指示
断れるはず、なかった。
この仕事に、人生をかけているのは事実で、
やっと。今ようやく波に乗れそう、という所で。
彼女がいるから、東京には行けません。
なんて通用しない。
メンバー皆、色んなものを懸けてて、犠牲にしてきて、ようやく掴んだデビューを。
俺ひとりの我儘で、壊したくない。
けど、
彼女の泣き顔なんて見てしまえば、昨日まで固まってたはずの決意なんてあっという間に崩れてゆく
「望、いかんといて」
これで正しかったのか、さえ思えてきてしまう自分が情けなくて。それでも、その手を離したくないのは事実で。
「ごめんな、」
「毎日電話する、絶対別れへんよ」
「絶対、迎えに行くから、待ってて」
「俺を信じて。」
うん、って
絶対待ってる、って
あの時の彼女の顔を俺は絶対に忘れないんだろう。
それからがむしゃらにただ前だけを見て走ってきて、少しずつ軌道に乗り始めて、
あと少し。もう少し。
頑張る気力はいつも君だった
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「望、」
「Aが、事故、ったって…」
流星のこんな顔は見たこと無かった
手のひらの中にあったはずの携帯電話が、
音も立てず、静かに堕ちていった。
割れたそれは、もう、きっと元には戻らない
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作者名:ゆき | 作成日時:2017年3月26日 10時