プラトニック (ページ9)

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手越サイド

｢ただいまー｣

返答なんか気にしないあいさつをして玄関に入ると、あの人の靴を見つけて、かたまった。
あの人がいる。それだけで、うまく呼吸ができなくなる。

｢ゆ、うちゃーん｣

ねっとりとした声が耳に木霊する。
物音に気付いたあの人は、俺を見るとにんまりと笑って近づいてくる。
ぎゅっと抱き締められたとかに、酒臭い吐息がかかって、思わず顔をしかめた。

｢可愛い、ねえ｣

ねえ、今日は何着て遊ぶ？

そう言う親父の目は嫌らしい男の目で、俺は嫌悪する。その間にも、親父の手は制服を脱がしにかかってる。

｢ここじゃ、やめろって｣

あ？

親父の拳がお腹に入る。床に倒れた俺に、親父が覆い被さる。制服の下のシャツのボタンが弾け飛ぶ。
冷たい床の上で、実の父親に襲われるって最高に惨めだ。

さっき殴られた腹が地味に痛い。

俺と、それからこんなことをする親父も、惨めで、カッコ悪い。

俺は心を無にする。

俺は人形だ。

ちがう。俺は人形なんかじゃない。

世界なんか壊れてしまえ。