常冬の海 ページ9
ふと目をやると、駅舎の直ぐ側に設置された銅像が視界に入った。丁度良い事に周りには休憩出来そうなベンチもある。先程から小さな身体に重い荷物という苦役に耐えていた響は、救いを見つけた様な表情でそこに腰を下ろした。
それは銃を肩に掛け、若い娘の像と抱擁しているソ連軍人の銅像だった。その銃身には黒とオレンジのリボン(ゲオルギーのリボンと呼ばれているらしい)がちょこんと結ばれている。寒空に白い息を吐き出しながら、響はその姿に記憶の中の二人を重ねた。自分の艦の乗組員とその友人。今よりもずっと前のあの日、二人は互いに涙ぐみつつ激励の言葉を掛け合っていた。あの若き兵士達の姿と今目の前にある銅像とがぴったりと重なり、彼女にただ一つの事実を提示する。いつの時代だって、どこの国だって、民はいつも時代に翻弄されるのだと。
「だーれだ」
突然視界が強制的に閉ざされ、ふわふわとした温かさに包まれる____と思ったのも束の間、直ぐに身体を締め付ける両側からの力を感じ、響は思わず立ち上がった。誰かなど確認せずとも分かる。のんびりした声音、やたら人を腕っ節で拘束しようとする悪癖、そしてこの甘い香り。懐かしさとほんの少しの本能的な恐怖を織り交ぜ、小さく微笑みかける。見上げたその姿は変わっていなかった。
「どうも、ロシアさん。出来ればいきなり抱きつくのはやめて頂けると」
「えー？だってこれが私の家の挨拶だもん」
「ちょ、痛いです。骨、骨逝きますってちょっと」
ぎりぎりと痛みを訴える身体を捩り、響はなんとかロシアの腕の中から抜け出した。まったく、相変わらず何処にこれだけの力が隠されているのだろうか。目の前でくすくすと笑う彼女はスラヴ系特有の淡麗さを有しており、とても日本で冗談交じりに「おそロシア」などという異名を貰っている国とは思えない。
ロシアはもう一度軽く響の背中に手を回して再会の喜びを表現した後、マフラーを口元に持っていきながら控えめに微笑んだ。
「さて、改めて久し振り。ヴェールヌイちゃん」
「……その呼び方」
「うふふ、ここに居る間はヴェールヌイだよね。中々沈まなかった君にぴったりの名前」
「勘弁して下さいよ。カラムジナから出て来るだけで四十年かかったんですから」
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十弧(プロフ) - ナ子さん» コメント有難う御座います。身に余るお言葉を頂けて嬉しい限りです…！殆ど好きだけで書き殴っているのでまだまだ至らぬ点など多々見られると思いますが、楽しんで頂けたようで作者冥利につきます。不定期更新ですが、これからも何卒宜しくお願い致します！ (2019年1月19日 15時) (
レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
ナ子 - 読ませていただきました…こんなに面白い文章を書ける人がいたなんて…と少々驚いています。舞台となっているロシアについても細かく描写されていて尊敬します。これからも頑張ってください！ (2019年1月19日 9時) (レス) id: 5e3a342151 (このIDを非表示/違反報告)
十弧(プロフ) - 白林檎さん» コメント有難う御座います。そのような温かいお言葉を頂けて嬉しい限りで御座います…！一次創作は初めての試みで慣れない事もありますが、楽しんで頂けて幸いです。これからもご期待に添えるよう精進して参りますので、何卒宜しくお願い致します！ (2018年9月2日 18時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
白林檎(プロフ) - 初コメ失礼します。とても繊細な文章、作者様の語彙の豊富さが垣間見えるようです。占いツクールでこのような良作に出会えたことに感謝します笑 一次創作は中々売れづらいとは思いますが、応援しています。頑張って下さい！ (2018年9月2日 17時) (携帯から) (レス) id: b3533b2202 (このIDを非表示/違反報告)
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