ビロードの愛/写真家 ページ26
「浮気するような悪い子に」嘲笑混じりの言葉がAの鼓膜を揺らす。彼女はぼやける意識の中で反響を繰り返すジョゼフの声に、目を大きく見開いて息を呑んだ。その声音は美しくもまた冷たくもあり、まるで氷上で演じられるワルツを聴覚を介して鑑賞しているかの様だった。
「いや、あれは別にっ____」
「君は黙ってて。僕はAに訊いているんだ」
ぴっ、とナワーブの鼻先に剣の切っ先が突き付けられる。彼は更に何か続けようとしたが、ジョゼフの細められた目を見て素直に言葉を飲み込んだ。嗚呼、あの目。あれは本気で怒っている。
ジョゼフは蹲るAの前でしゃがみ込み、説明を求める様に彼女の肩にゆっくりと手をかけた。凶器の代わりにもなり得るジョゼフの爪がAの服に食い込み、その下にある彼女の肌に三日月状の跡を付ける。Aは鋭い痛みに顔を顰めながら、震える唇で言葉を紡いだ。
「あれはご飯作るの手伝ってもらってただけで。だっ、てジョゼフがいっつもやらせるから、癖になってて……っ、」
辿々しいAの科白にピリオドが打たれる事は無かった。彼女はまず瞬きを数回して目の前にあるジョゼフの長い睫毛を見つめ、彼の髪が纏う花が咲き誇る瞬間の様な艶やかな香りを肺に落とし込んだ後、漸く何が起きているのかを脳で理解した。残念ながら、負ったダメージの所為で抵抗する事は叶わなかったが。
「それでも、僕以外にやるのは許せない」ジョゼフは一度重ねていた唇を離して小さく微笑み、再びAの唇に口付けを落とした。但し、それは先程の様に軽く触れ合うだけのものではない。決して逃すものかとでも言いたげな____例えるならば、天井から垂らした糸で相手の指の一本一本を少しずつ絡め取っていく様な口付け。フィルム上のワンシーンの様なその光景に顔を真っ赤にして目を泳がせているナワーブにくすりと笑いかけ、ジョゼフはやはり頬に混乱と羞恥の色を浮かべたAを抱えて立ち上がった。「さて、後は君達でどうぞご勝手に。解読してさっさと帰ってよ。こんな事滅多に無いんだから、感謝してよね」他人事の様なジョゼフの言葉を聞き終えた瞬間、ナワーブは自らが縛り付けられたロケットチェアの発射ゲージが溜まった事を悟った。
「おーい、ナワーブ！いやー、さっきは助けられなくてごめんな！大丈夫だったか？」
「ウィリアム。……ああ、心臓に悪かった」
「やっぱ？だよなー、ハンターが近くに居る時って心音煩いもんな」
「……」
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聴(プロフ) - 十弧さん» いえいえ！お返事ありがとうございます！相変わらず綺麗な文章でとても羨ましい....！ゆっくり十弧さんのペースで体調に気をつけつつ更新頑張ってください！ (2019年8月17日 22時) (
レス) id: c7868a9ed4 (このIDを非表示/違反報告)
十弧(プロフ) - 聴さん» お久しぶりです…！最近うらつくに出入りする間隔も長くなってきていて、中々お返事出来ずに申し訳御座いません。第五人格良いですよね〜！私も大好きで書いていて楽しいので、そう仰って頂けて嬉しいです！これからも少しずつではありますが書いていきたいと思います！ (2019年8月13日 13時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
聴(プロフ) - こんばんは、お久しぶりです。覚えておいででしょうか。リトの親です。最近第五人格を始めたので十弧さんの第五人格が読めてハッピーです！ありがとうございます！ (2019年8月9日 19時) (レス) id: c7868a9ed4 (このIDを非表示/違反報告)
十弧(プロフ) - ナ子。さん» コメント並びに応援のお言葉、有難う御座います。自分で言うのもなんですが、キャラだとおジョゼが一番特徴的かもしれませんね(笑)更新は遅めですがこれからも楽しんで頂けるよう精進して参りますので、何卒宜しくお願い致します！ (2019年4月21日 9時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
ナ子。(プロフ) - 少し前から読ませていただきました・・・とてもキャラが立つ文章のため面白く読ませてもらってます。応援してます！ (2019年4月21日 9時) (レス) id: 848e96a0c3 (このIDを非表示/違反報告)
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