霧中のドラクロワ/杰 ページ15
あくまでも強制はしない、とでも言いたげな言い回しだがその実そこには隠し切れぬ好奇心が滲んでいる。Aは暫し真っ黒な空に月以外の装飾、つまり輝く星々の類が見つけられやしないかと視線を持ち上げていたが、やがて観念した様に俯いてぽつりと呟いた。
「画家になりたくて。でも親に反対されたから家出して来た、それだけ」
「私、才能無いんだってさ」誤って口に含んでしまった毒薬を吐き捨てる様な調子でAが付け加える。おや、とリッパーは腕の中の彼女を見下ろした。まるで自分が身に付けている真っ白な仮面を真似て付けたかの様に感情の起伏が無い顔。だが、彼はその中に僅かな悲しみと寂しさを感じ取った。これは珍しい事だ。Aはゲーム中もゲーム外でも殆ど素直な気持ちを顔に出す事が無い。リッパー達ハンターに追われている時も、目の前で仲間がダウンした時も、他のサバイバーの面々から話しかけられた時も。その端整な顔に浮かべるのはいつも無か嘲る様な微笑だけ。
だが、よくよく考えてみれば彼女はまだほんの子供なのだ。親元を離れてこんな訳の分からないゲーム会場で生活するなど、心細くて仕方ないだろう。それでも他人を頼らないのは年頃故の虚栄心か、それとも無意識的にか。どちらにせよ、リッパーはそんな彼女の人間らしい一面を覗けた事に感謝した。これでまた一つ、この子の綻びを見つける事が出来た。もしも自分が彼女の頭を優しく撫で、そして「貴女はきっと素晴らしい画家になりますよ」と言ってやれば。そうすれば、この不安定な少女は自分に身を預けるだろうか？
「奇遇ですね。実は私もよく絵を描いていまして。どうですか？宜しければ今度ご一緒に」
「はは、死んでもごめんだよ」
「おや、手厳しい。……っと、どうやらお喋りはここまでのようですね」
だが、それはまた今度だ。いつまでも彼女が帰らなければ他のサバイバー達が心配し出すだろう。まったく、彼らは厄介な事この上ない。本人があまり関わってくるなと言うのだから放っておけば良いものを。そうすれば自分一人だけが彼女を独占する事が出来る。
リッパーはロケットチェアにAを座らせ、なるべく彼女を傷付けないよう拘束した。音も無くカウントダウンが始まる。ふてぶてしくこちらを睨んでくるAにゆったりと微笑み、彼はその少女の指先に仮面越しの口付けを落とした。いつか、この白くしなやかな指が自分に触れてくれる日を夢想して。
「おやすみなさい。良い夢を」
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聴(プロフ) - 十弧さん» いえいえ！お返事ありがとうございます！相変わらず綺麗な文章でとても羨ましい....！ゆっくり十弧さんのペースで体調に気をつけつつ更新頑張ってください！ (2019年8月17日 22時) (
レス) id: c7868a9ed4 (このIDを非表示/違反報告)
十弧(プロフ) - 聴さん» お久しぶりです…！最近うらつくに出入りする間隔も長くなってきていて、中々お返事出来ずに申し訳御座いません。第五人格良いですよね〜！私も大好きで書いていて楽しいので、そう仰って頂けて嬉しいです！これからも少しずつではありますが書いていきたいと思います！ (2019年8月13日 13時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
聴(プロフ) - こんばんは、お久しぶりです。覚えておいででしょうか。リトの親です。最近第五人格を始めたので十弧さんの第五人格が読めてハッピーです！ありがとうございます！ (2019年8月9日 19時) (レス) id: c7868a9ed4 (このIDを非表示/違反報告)
十弧(プロフ) - ナ子。さん» コメント並びに応援のお言葉、有難う御座います。自分で言うのもなんですが、キャラだとおジョゼが一番特徴的かもしれませんね(笑)更新は遅めですがこれからも楽しんで頂けるよう精進して参りますので、何卒宜しくお願い致します！ (2019年4月21日 9時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
ナ子。(プロフ) - 少し前から読ませていただきました・・・とてもキャラが立つ文章のため面白く読ませてもらってます。応援してます！ (2019年4月21日 9時) (レス) id: 848e96a0c3 (このIDを非表示/違反報告)
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