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千冬の意思は固かった
まるで俺の、Aへの思いを知っているのを逆手に取るように…
東卍から逃がすため、俺と籍を入れて名字を変えさせること
閲覧制限をかけて、簡単には追えないようにすること
そして、Aを幸せにしてやってほしい、と…
千冬
「勝手なこと言ってるのはわかります
でも、Aの幸せを願うなら、俺はAを手放すしかない
一虎くんなら、Aのこと幸せにしてくれるって思ってます」
一虎
「ほんとにそれでいいのかよ…」
千冬
「…俺が生きた証を、守ってほしい
そう、伝えるつもりです」
なんだよ、それ…
まるで、今生の別れみてぇなこと言って…
でも、このままAを東卍にいさせるわけにもいかねぇ
他にAを助ける方法がないなら、お前の策に乗ってやる
そして数日後
千冬からAが納得して婚姻届を書いたことを聞かされ手渡された
証人の1人には千冬の名前があった
届けは少しぐしゃっとなってて、千冬の決断の辛さを物語っていた
A奪還予定の日
本当なら千冬も助けるつもりでいたが…
手遅れだった
暗闇の中、Aの手を引き、タケミチを担いで脱出した
パニックになっているAを、近くに停めていた車に押し込んで、タケミチも乗せて足早に現場を去った
『大丈夫だから
俺だけは、ちゃんとそばにいるから』
Aにはそう言うことしかできなかった
千冬を助けられなかった後悔が押し寄せる
あいつは、こうなることを見越していたのか…
自ら犠牲にして、タケミチを庇い、Aと子どもを託して…
カッコ良すぎるけど、それじゃだめだろ、千冬…
大事なら手放すなよ
他に、お前が選べる道はなかったのかよ…
東卍から出て警察の警護対象となったA
橘直人と会う日、つわりがひどくて警察署に行けない日もあった
そんな生活がしばらく続いたある日、Aは言った
千冬と暮らしていたマンションに行きたい、見るだけでいい、と
さすがに、どこに東卍の奴らがいるかわからない…
それでも、一度でいい、車からでいいから、と言われた
そこまで言われたら、と車を出して、マンション前まで向かった
車窓から、住んでいただろう部屋を見上げるA
千冬と最後の別れでもしたかったんだろう
それなりの思い出があったはずだ
Aにとっての幸せは、なんだったんだろう…
Aはマンションに向かって小さく
『あなたが生きた証、ちゃんと守るから』
と呟いた
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作者名:神奈月 | 作成日時:2022年12月5日 18時