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一虎
「いいのかよ？
おふくろさん、酔って寝ちまったけど…」
A
「お母さん、めったにお酒なんて飲まないからね…
これまで本当に苦労して育ててもらった…
少しずつ、恩返しできたらいいな…」
結婚式前夜
実家で母とゆっくり過ごしていた
夕飯近くになると、母は思い立ったかのようにトラくんを家に招いた
そして、めったに飲まないお酒を飲んで、そのまま寝てしまった
そのうち起きるだろう、とソファで横になる母に毛布をかけた
A
「…ちょっと、酔い覚ましに散歩してくる…
…付き合ってくれるよね？」
一虎
「結婚式前に、お前になんかあったら俺が千冬にシメられる
付き合うよ」
A
「ありがと」
特にどこに行くわけでもなく、近所を歩く
少し後ろには警護担当の刑事が2人ほどいるみたい
子供の時よく遊んだ公園
今度は、自分の子供を連れて来るようになるのかな…
なんて、夢が膨らむ…
一虎
「なぁ、A…」
A
「ん？」
一虎
「…絶対に、幸せになれよ」
振り返ると、優しい表情のトラくんがいた
リン、と鈴のピアスが鳴る
A
「うん…
ありがと
これからも、千冬と仲良くしてくれる？」
一虎
「ほどほどに、な」
A
「なに、それ」
思わず笑ってしまった
でも、トラくんらしい
ふと気がつくと、トラくんが目の前に立っていた
私の両頬に手を添えて、こつんっと額をくっつけてきた
私が不安な時、悩んでいる時はいつもこうしてくれた
一虎
「…これ、俺の独り言な…」
A
「…ぅん…」
一虎
「もしガキの頃に戻れるなら…
俺、お前のこと好きってちゃんと伝えたい
お前、全然気付かねぇんだもん…
顔合わす度に好きって言って、付き合ってくれって言う
他の奴に、お前のこととられたくねぇ…
でも千冬だから、俺は今素直にお前たちのこと祝える…」
A
「…トラくん…」
一虎
「場地Aのこと、本当に愛してた」
A
「あの、トラくんっ…」
一虎
「…なんだよ、顔真っ赤にして
お前はもう松野Aだろ
俺が好きだったのは場地A
お前じゃねぇよ」
至近距離で、ニッ、と笑うトラくん
トラくんのまっすぐな想いに応えられなくてごめんね
背中を押してくれた分、ちゃんと幸せになるよ
トラくんのこと、お兄ちゃんとして、大好き
A
「明日、お願いね…？」
一虎
「おぅ」
大好きなお兄ちゃんに、送り出してもらいんだ…
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作者名：神奈月 | 作成日時：2022年12月5日 18時
