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千冬は仕事が終わると、毎日Aの病院に行っている
正直、今の千冬は、痛々しくて見てられねぇ…
とうとう、結婚式を延期した、と千冬から聞かされた
仕方ないこととはいえ…
これが、あの2人の運命だったのか…?
と、問いたくなることもある…
Aが目を覚さないまま、時は止まらず流れて行く
バックヤードのカレンダーを見ると、今日は赤丸の印がある
結婚式
と、千冬の筆跡で書かれている…
本来なら、三ツ谷が仕立てたドレスを着るはずだったA
仲間や家族に祝福されて、千冬と一緒に生きて行く最初の日
それなのに…
当の千冬は結婚式を延期したから、今もいつも通り仕事をしている
ほんと、見てられねぇ…
仕事が終わると、千冬はAの病院に行くと言って、店を出た
俺も、たまにはAの顔を見に行くか、と思い立った
その前に、コンビニでなんか買ってくか…
千冬、最近食べることにも無頓着になってきてるからな
Aが知ったら、不健康だ、とか言って怒るだろうな…
病室へ行くと、点滴に繋がれたままのA
ソファに体を預けて、ぼぉってしている千冬
もう、この光景は何度もみた…
千冬
「…一虎くん…」
一虎
「これ、差し入れ
お前もちゃんと食えよ
じゃないと、Aに不健康だ、とか言われるぜ」
コンビニの袋を渡すと、千冬に苦笑いをした
千冬
「…そうっすね…
多分、そう言って、怒るだろうな…」
一虎
「…お前が倒れたら、Aのことどーすんだよ
自分のことも大事にしろよ」
千冬
「…俺になんかあったら…
そん時は、一虎くん、Aのこと頼みますよ…」
一虎
「…頼まれるわけねぇだろ
俺はもうとっくにAのことは諦めた」
そう、諦めた…
Aに1人の男として愛されることは諦めた
でも、それでも、Aのことは愛してる
だから、Aが選んだやつと、Aが幸せになってもらいたい
それは、松野千冬しかいねぇと思ってる
一虎
「…本当は今日、結婚式だったな…
どっかの童話にあったよな…、眠り姫だっけ?
キスしたら目ぇ覚ます、って」
千冬
「…一虎くん、らしくないこと言いますね」
一虎
「俺もそう思った
らしくねぇよな…
でもよー…
そんなんで目ぇ覚ましたりするかもしれねぇよ?」
千冬
「…んなことあるわけないっすよ…」
一虎
「なぁ、千冬…
Aのこと、頼むぜ?」
元気なAを、取り戻してくれ
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作者名:神奈月 | 作成日時:2022年12月5日 18時