30 ページ30
A
「社長がそんなお世辞言うなんて…
今日は槍でも降るかもしれませんね」
大寿
「…そうとってくれて構わない
場地A、もしこの先また縁があれば、俺の会社に来い
お前ならいつでも歓迎しよう」
すっ、と差し出された手
千冬よりも大きな手
握手すると、私の手なんてすっぽり隠れてしまう
A
「しばらくは、彼との時間を大切にしたいので…
すぐにはご期待に添えられませんが…」
言葉ではそう言う
でも握手した手の指先ではこう伝えた
『ありがとうございます
いつか、今日の恩返しをさせてください』
そう伝えると、社長の表情が柔らかくなった
直人
「Aさん
お疲れのところ申し訳ありません
お話を伺いたいので、署まで来ていただけますか?」
A
「はい…」
千冬
「直人、あんまり長い時間は勘弁してやってくれよ」
直人
「わかっています
終わりましたらご連絡しますので、迎えにきてあげてください」
千冬
「おぅ」
A
「じゃぁ、ちょっと行ってくるね」
離れたくない気持ちを抑える
でもこれからは、千冬と一緒にいられる
パトカーに乗る直前、もう一度千冬の方をみた
すると、彼の背後に見たことある男が近付いていた
…誰だっけ…
嫌な汗が流れた
頭の中にある記憶を呼び起こす
そして、思い出した瞬間、体が動いた
同時に、なぜかいろんな映像が頭の中を駆け巡った
偶然寄ったペットショップで、お客さんとして来ていた千冬
トラくんと2人で食事をする自分
千冬にナイフを突きつける自分
椅子に縛りつけられている千冬と武道くん
赤ちゃんを抱っこしているトラくん
あの男…
帰宅途中の私に声をかけて、車に押し込んだ男だ
A
「千冬っ!!」
駆け寄って、男と千冬の間に割って入ると、背後から左の脇腹に声にならない痛みが走った
すぐに千冬が抱き止めてくれたけど…
千冬が、何度も私の名前を呼ぶ声が聞こえる…
なんか、トラくんの声も聞こえるような…
千冬
「お前、なんでっ…」
A
「…ち、ふゆ…
怪我、してない…?」
千冬
「してねぇよ…
お前こそ、なんで、俺のこと庇って…」
A
「もう、あなたを失いたくない…」
遠くで聞こえる救急車の音
痛みのある場所を、誰かが押さえてくれている
この手、きっと、トラくんだ…
千冬、泣きそうな顔をして、必死に何かを言っている
…少し、眠たくなってきた…
80人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:神奈月 | 作成日時:2022年12月5日 18時