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A
「社長がそんなお世辞言うなんて…
 今日は槍でも降るかもしれませんね」

大寿
「…そうとってくれて構わない
 場地A、もしこの先また縁があれば、俺の会社に来い
 お前ならいつでも歓迎しよう」

すっ、と差し出された手

千冬よりも大きな手

握手すると、私の手なんてすっぽり隠れてしまう

A
「しばらくは、彼との時間を大切にしたいので…
 すぐにはご期待に添えられませんが…」

言葉ではそう言う

でも握手した手の指先ではこう伝えた


『ありがとうございます
 いつか、今日の恩返しをさせてください』


そう伝えると、社長の表情が柔らかくなった

直人
「Aさん
 お疲れのところ申し訳ありません
 お話を伺いたいので、署まで来ていただけますか?」

A
「はい…」

千冬
「直人、あんまり長い時間は勘弁してやってくれよ」

直人
「わかっています
 終わりましたらご連絡しますので、迎えにきてあげてください」

千冬
「おぅ」

A
「じゃぁ、ちょっと行ってくるね」

離れたくない気持ちを抑える

でもこれからは、千冬と一緒にいられる

パトカーに乗る直前、もう一度千冬の方をみた

すると、彼の背後に見たことある男が近付いていた

…誰だっけ…

嫌な汗が流れた

頭の中にある記憶を呼び起こす

そして、思い出した瞬間、体が動いた

同時に、なぜかいろんな映像が頭の中を駆け巡った





偶然寄ったペットショップで、お客さんとして来ていた千冬

トラくんと2人で食事をする自分

千冬にナイフを突きつける自分

椅子に縛りつけられている千冬と武道くん

赤ちゃんを抱っこしているトラくん





あの男…

帰宅途中の私に声をかけて、車に押し込んだ男だ

あの世界線でも…(・・・・・・・・)

A
「千冬っ!!」

駆け寄って、男と千冬の間に割って入ると、背後から左の脇腹に声にならない痛みが走った

すぐに千冬が抱き止めてくれたけど…

千冬が、何度も私の名前を呼ぶ声が聞こえる…

なんか、トラくんの声も聞こえるような…

千冬
「お前、なんでっ…」

A
「…ち、ふゆ…
 怪我、してない…?」

千冬
「してねぇよ…
 お前こそ、なんで、俺のこと庇って…」

A
「もう、あなたを失いたくない…」

遠くで聞こえる救急車の音

痛みのある場所を、誰かが押さえてくれている

この手、きっと、トラくんだ…

千冬、泣きそうな顔をして、必死に何かを言っている

…少し、眠たくなってきた…

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作者名:神奈月 | 作成日時:2022年12月5日 18時

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