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「美味しかったなら僕の分も食べますか?」
慣れない言葉を口にした。
驚いたように僕を見上げる視線はやっぱり小動物のようだった。
「食べないの?」
餌を前にした子犬のように、問いかけとは裏腹に期待に満ちるような目。
歳上には思えないほどあどけない。
「お腹いっぱいなんで。どうぞ。」
そう言って彼女の前にお皿を置く。
「良かったね。」
飼い主によし、と言われたように舞さんの言葉に嬉しそうにお皿を自分の元に寄せるAさん。
「…ありがと。」
恥ずかしそうに、でも喜びを隠しきれないように口角の上がる彼女をみているのは、やっぱりなんだか楽しさと愛おしさを感じてしまった。
「じゃあそろそろ行きますか。」
「2次会どこにする?」
「お腹はいっぱいだからなぁ…カラオケとか?」
「いいね!」
思いの外自分が単純なことを嘲笑いながら、とりあえずみんなに合わせて席を立つ。
お皿に乗ったクリームまで綺麗に平らげたAさんは心なしか数分前より楽しそうに見えた。
「颯太も行ける?」
あまり乗り気でない僕を心配したのだろう雅也に大丈夫、と返す。
今日は放送の予定も入れてないし、進めなければならない作業もない。
それに、珍しく感じたこの気持ち、ほんのちょっぴりワクワクしている。
数分前より楽しそうなのは、Aさんではなく僕の方なのかもしれない。
「A、行くよ。」
「うんっ!…おっと、ご馳走様でした。」
きちんと手を合わせて挨拶をした後に、舞さんを追いかけて席を立つ。
彼女の一挙一動を追ってしまう。
あぁ、好きなんだな。
認めてしまえば簡単だった。
興味を持った。
普段なら気にも留めない行動すら、"いいな"という好意に変わる。
久々のこの感覚を、最早初めてとも呼べる感覚を、どう処理していいかはわからない。
とはいえ、何かが変わるわけではない。
恋愛禁止なわけではないが、不用意に手を出すべき立場ではない。
今日だけの、たった1日だけの恋。
後日作曲に使えそうだと、その期待値を上げることにした。
今はただ、この青春のようなトキメキを楽しむことにした。
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唯凛(プロフ) - 蝉-セミ-さん» コメントありがとうございます!楽しんでいただけるように頑張ります!また見にきてくださるととっても嬉しいです(^^) (2021年12月5日 19時) (レス) id: 365f6982f1 (このIDを非表示/違反報告)
唯凛(プロフ) - みなさん» ありがとうございます〜!!ついに(?)新作出せました〜!宣言してからだいぶ経ちましたね…(汗) 相変わらずのんびり幸せの詰まったお話にしたいな〜と思いつつ、起承転結つけられるよう頑張ります! (2021年12月5日 19時) (レス) id: 365f6982f1 (このIDを非表示/違反報告)
蝉-セミ-(プロフ) - 好きです。(唐突)面白い上に文章が素晴らしくて尊敬します(´;ω;`)次の更新がとても楽しみです。失礼します。 (2021年12月4日 23時) (レス) @page13 id: 19d8717651 (このIDを非表示/違反報告)
みな(プロフ) - 新作おめでとうございます!そしてありがとうございます!笑 これからどんな展開になるのか…楽しみです!! (2021年12月4日 18時) (レス) @page13 id: 73aaf1c921 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:唯凛 | 作成日時:2021年12月4日 16時