短編集【stxxx】

ー ページ34

再びAを見送ってまたひとつため息。
今の流れで渡してしまった方が良かっただろうか。
渡すタイミング…。
でもそれが言うタイミングにもなってしまう。
いつにするか。
でも、最後の思い出になるかもしれないなら、今日一日を楽しんでから…。
振られる怖さが頭によぎる。

それなら今のままの方が。
何度も何度もそう思ってきた。
だからこうして年月だけ重ねてきた。
その度に後悔した。
苦しいんだ。
どうしても、たまらなく苦しいんだ。
Aといる時間が大切なのに、Aと一緒にいるのが幸せなのに、同じくらい、いやそれ以上苦しいんだ。

終わらせたい。
もう終わらせた…


「ころちゃん？」


髪の毛を乾かし終えたのか、白いワンピースに身を包んだAが僕の顔をのぞきこんだ。


「あっ…。」


好きだ。
いやだ。
誰のものにもならないで。
僕だけの。
いやだ。
A、好きだよ。
まだこのまま。
僕だけの。


「…ころちゃん？」


スっと暖かい指が頬を滑った。
無意識で啜った鼻で泣いてることを自覚した。


「どうしたの？」


心配そうに僕を見つめる。
その目が、今みたいに僕だけを映し続けて欲しいんだ。


「大丈夫？何かあった？」


Aの手を振り払うようにぐしゃぐしゃと自分の裾で流れる涙を乱雑に拭った。


「活動のこと？私でよければ聞くよ？」

「…やだ。」

「え？」

「…やだっ！もう苦しい。」

「どうしたの？」


もうどうにでもなれ。
こんな情緒不安定な僕、かっこよくなんて全然ない。
けどもう泣いてしまったら止まらない涙。
ダサくてごめん。
こんな僕が好きになってごめん。


「ねぇA…好きだよ。」

「…え？」

「好きなんだ。Aのことが。もう友達なんて苦しくてやだ。」

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