短編集【stxxx】

ー ページ33

「なーにしてんの？」

「うわぁっ！！！」


突然話しかけられ驚いてしまった拍子に、ドゴンっと音を立ててしまった。
ガラスでできた容器に入った香水のせいだ。


「ご…ごめん。」

「びっくりしたぁ…。早いじゃん。」

「うん。せっかくころちゃん来てくれてるのに勿体無いからね〜。」


まだしっとりと濡れた長い髪。
メイクを落とすとほんの少しだけ幼さが顔を出す。
可愛い。
やっぱり好きだ。

僕以外にこんな姿、見せることがあるのかな。

そんなことを考えていて一瞬気分が落ち込む。


「で、何してたの？」


そんな僕の気なんて知らずに横に腰を下ろしたAからは、ふんわりとシャンプーの香りが漂ってきた。
ドキドキと鼓動が早くなる。
嫌でも意識してしまう、好きな子が隣にいることを。
なに？と大きな目をパチパチと開いて僕を見るその瞳に吸い込まれてしまいたい。

Aに見惚れて何も言わない僕に痺れを切らしたのか、僕が覗いていたカバンに視線を移した。
まだ早いと隠そうと思ったが間に合わなかった。


「あっ！これ！！」


大好きなブランドのものなんて、見て仕舞えばすぐにばれる。
僕が持ってるはずもない女性用のブランドだ。
キラキラと目を輝かせながら僕を見つめる。


「ねぇ、これ！…期待していい？」


悪戯っ子のように笑いながら、ほんの少しの上目遣い。

こういうところだよ。

素直で無邪気。
好きなところを再確認すると同時に、素直な反応は意識していないと同義なんじゃないかと考えてしまう。


「人のカバン勝手に見んな！」

「え〜！ねぇ、誕プレじゃないの？」

「ちげーし！！！」


鞄を閉じればシュンと落ち込んだように眉を下げる。
そんなに欲しかったのかよ。
誕プレだよ、って渡したら笑ってくれるのかな。
僕だけに、可愛い笑顔を見せてくれるのかな。


「それよか早く髪の毛乾かして着替えてこいよ。どっか行くんでしょ？」

「うん！仕事の休憩中にね、美味しそうなカフェ見つけて〜。あと、自分への誕プレにお洋服買いたいの！」

「じゃあ行ってこい。」

「はーい！」

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