短編集【stxxx】

ー ページ32

彼女をできる限り起こさないよう、静かに体を起こす。


「んっ…。」


それでも微かな振動を敏感に拾い上げ目を擦りながら同じように体を起こしはじめた。


「ごめん、起こしちゃった？」

「ん…だい…じょーぶ。」

「お疲れ様。おかえり。」

「…ふふっ。ただいまぁ。」


何が嬉しいのか、眠そうに目を擦りながら嬉しそうに笑う。
それでも眠いのか、目はあかない。


「眠いなら寝てな。」

「やだぁ…。おきる。」


目を瞑ったまま部分と首を横に振る姿は猫のよう。


「ころちゃんとの時間…短くなっちゃう…。」

「べつに遊べるの今日だけじゃないじゃん。」


Aの反応が嬉しいくせに、口から出るのはそれを隠してしまうような言葉ばかり。
違う、そんなことを言いたいんじゃないだろう。


「んー…。」


ぐしゃぐしゃと両目を擦ったAはやっとこさ目を開けた。


「まぶひぃ…」

「A。」

「ん？なぁに？」

「お誕生日おめでとう。」

「…あっ、そういえばそうだったね。えへへ〜ありがとう。」


嬉しそうに目を細めたAに思わず手を伸ばす。
もう少し。
あと少し。
ほんの少しの勇気を。


「ねぇA。」

「んー？」

「……………メイク落としてシャワー浴びてきたら？」

「っ！そ、そうだった、そのまま寝ちゃってた。」


へらりとわらって布団から出ていく。
その背中をただ視線だけで追いかけた。


「はぁ…意気地なし。」


独り言をこぼしてベッドから離れる。
スマホを取り出すついでにカバンを開ければラッピングされたプレゼントが2つ。
Aのことなら知ってる。
Aが欲しいと言っていた香水を誕生日プレゼントとして買った。
これは単純に欲しいと言っていたから。
喜ぶ顔が見たいから。
そして、もう一つはネックレス。
指輪を渡す勇気は流石にない。
けど、好きな子に渡すプレゼントを調べた時に、今の自分にぴったりだと思ってしまった。

束縛
不安

意味に気付かずもらって欲しい。
けど、これをもらってくれれば受け入れてくれたって思えちゃうから。

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