9 ページ9
後から高地に聞いた話だと、北斗は殆ど回っていない呂律で彼の名を叫びながら、
抑えようとするジェシーの腕を振り払って、必死にセットの残骸に埋もれる慎太郎に手を伸ばしていたらしい
焦点の合わない目で、決して美しくなどなくなった恋人を見つめて
そう話した高地の顔は青ざめていて、あの時俺を彼の元へ行かせてくれなかったのは優しさだったのだとやっと気づいた
葬儀には、北斗は出席しなかった
できなかった。の方が正しいかもしれないが
彼はあれから暫く、昏睡状態に陥っていた
無理もなかった。目の前で恋人がセットに押しつぶされていく姿を見て、誰が正気でいられるだろうか
葬儀中、俺は下唇を噛んで涙を堪えた
絶対、絶対に泣いてなんかやらない
【きょもが強いのは知ってるし、そこがいいところだってのも分かってる
でも、俺の前でくらい泣いてもいいんだよ？】
生前の彼が、弱ってた俺に言ってくれた言葉
だから
だから絶対に泣いてなんかやらない
誰が、誰が俺を置いてった奴のために泣いてやるか
ふざけんな
勝手に置いて行くなよ
……行かないでよ
涙腺は、彼との家に帰ってきた瞬間、決壊した
「う、うぅ……ぐすっ」
呻き声のような情けない声が出た
「……寂しい」
実家よりも大分狭い家の中は、たった一人だと酷く広く感じられた
「寂しいよ、樹」
なんで置いていったの
リビングに、俺の汚い嗚咽が零れた
「……ぐすん」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 88人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
rarai0821(プロフ) - こんなに感動する作品久々に読みました。これからも頑張ってください!! (2023年4月27日 23時) (
レス) @page17 id: 17c89b6bef (このIDを非表示/違反報告)
あかさ(プロフ) - おもしろいです！こんなストーリー初めてな氣がします。最高に楽しくて続きが知りたいです。 (2022年10月16日 21時) (レス) @page7 id: 5c2ac0054a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夕里 | 作成日時：2022年10月4日 23時
