第二十五話 つとめて ページ28
『…違う……違う、こんなじゃなかった』
まだ荒い息を無理矢理整えながら、そう呟く。最近、あも悪夢はめっきり見なくなっていたのに、何なんだこれは。月奈はどうして衛兵さんなんかに捕まえられている？
『あいつは聖女様なんじゃないのかよ…』
頭をかかえても、いくら考えてもわからない。あそこまで聖女崇拝に傾倒しているような国の祭司さんが、衛兵さんを使ってまでその祀る対象を傷つけようとするなんておかしい。
『どういう、ことだ…？』
私に安全な場所へ連れ出されることを拒んだ月奈が、聖女様として奉られることを望んで私の手を振り払った月奈が、どうして祭司に反抗する理由がある？本来なら、彼女はとっくに聖殿の人たちと共に聖女としての仕事…"香"の場に立ち会ったり、"聖なる力"なるものを祈りを捧げることによって覚醒させているはずだと言うのに。
『…ダメだ、頭を冷やそう』
初めて恐ろしい夢を見たあの時のように、取り乱しはしない。そこで自分がトチっては一貫の終わりだ。あの日見つかったのがショッピさんだったことがラッキーだっただけで。
『服よし、髪の毛よし、短刀よし』
鏡を見ながらウィッグを調節し、ちらりと時計を確認する。時刻は4時をちょっと過ぎた頃。活動を始めるには少し早いが、夏の盛りの今の時期、外に出るにはいい気温だろう。
『……窓使っちゃお』
真っ当に廊下を歩くのは、何だか気分じゃない。と言っても幹部の自部屋が並ぶこの一帯は防犯上外には面していないから、部屋の窓から出ても一度渡り廊下を経由する必要がある。
『うん、届きそう』
距離はあるが、跳べば手を掛けられるくらいだろう。脱兎のごとく部屋を抜け出した私は、警備の軍人さんに一礼してから渡り廊下の窓を引き開けた。よし、ここから中庭に出れる。
『後でここから戻ってくるので、開けておいてください』
軍人さんにそう声をかけ、私はしゃきんと澄んだ朝の大気の中へと降下し始めた。もちろん、自由落下ではないが。そんなことをしたら足が折れる。所々足場に移っては、柔らかな苔むした地面へと飛び降りる。さて、どこへ行ったものか。
『…歩くか』
清涼な薄緑色の空気を胸に吸い込んで、ふうと息をひとつついた。季節が季節ゆえ、この時間帯でも靄はかかっていない。視界は明瞭。城壁の内側をぼんやりと眺めて庭を歩く。小鳥の囀ずりを耳に心地よく感じつつ、ゆっくりと。
『………チーノ、何か用？』
自分を尾行している人物を認識しながら。
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あくら、 - 久しぶりに夢小説読んだんですがゆうり様の作品最高すぎですね(*´꒳`*) (2022年6月1日 17時) (
レス) @page3 id: d4efbb01c8 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - 楽しく読まさせていただきました。インクではないですが、洗剤で紙に文字を書き、乾燥させてから書いた紙を濡らすと文字が浮かび上がるそうですね。 (2022年4月8日 21時) (レス) id: 1e5fccc68e (このIDを非表示/違反報告)
カナリア - 安らかに眠れwwとびらww (2021年1月10日 11時) (レス) id: e6d62c8537 (このIDを非表示/違反報告)
黒瀬(プロフ) - 毎回夢ちゃんの葛藤、そして皆からの愛情が伝わって胸きゅんが止まりません...これからも応援してます！ (2020年12月24日 12時) (レス) id: 3009402549 (このIDを非表示/違反報告)
しぇけなべいべ(プロフ) - 少し。ほんの少し。書き方変えましたか......??まぁ。それは置いといて。毎日更新ありがたいです.....!!!!! (2020年12月20日 23時) (レス) id: a746dec877 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆうり
| 作成日時：2020年12月7日 19時
