俺のゼファー【龍宮寺堅】

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無意識にドラケンを探して部屋を出る。彼の温かい息を肺は欲しがっていた。

少し歩いたところの待合室に武道とマイキーがいる。ドラケンはいないようだった。



「Aさん...これ。エマちゃんが直前までAさんにって...」



こちらに気付いた武道が、少しくしゃついた1つの紙袋を差し出す。




紙袋には数枚割れている私の好きなクッキーが袋いっぱいに入っている。その袋にエマの字で短く文章が書かれている。


“クッキーは合格祈願。だからお守りは恋愛用”


もう一つ紙袋に入っていた小さな小袋。中身は恋愛成就のお守りだった。



「好きな人出来たら教えてね！応援するから！」


数日前に言われた言葉を思い出す。
女の子になりたいと言った私に沢山協力してくれて、別れたっていた時には私よりも悲しんでくれた。私の幸せを心から願ってくれた。

なのに私は、心から彼らの幸せを願えただろうか...。
今、私はドラケンに何を求めてた？私は友人の死を受け入れずに逃げていないか？




「Aさんっ！大丈夫ですか！！い、今ドラケン君を...」


さっきよりも呼吸が荒くなっているのが分かる。

喧嘩が強いなんてエマには言われたけど、私はエマよりもずっと弱い。

1人になるのが怖くて、大切な人を失うのが怖くてたまらない。



私は強くならないといけない。笑顔でお前らの幸せを応援できるほどに。



だから。だから。



震える手で無理矢理クッキーが入っていた袋をあける。

そのまま口の中にクッキーを放り込んだ。

クッキーもドラケンへの思いもエマへの思いも全部全部飲み込む。


苦しくても、大好きな大好きな味だった。




『...っつ、ん強く、私はなるから..っ』




武道がドラケンを呼んだのだろう、駆けつけたドラケンは私の方へ近寄ってあの時のように私の肺に息を入れようとする。無理矢理クッキーを食べる腕を遮られた。ひどく怒っているようだ。



「てめぇなにやってんだ！そんなことしたらお前も...！！」



優しい男だ。こんな時でも私を助けてくれようとするのだから。

でも、もう私はお前に助けられるような弱い奴じゃいられない。






『...私は死なない！！エマの分まで、圭介の分まで生きてやるっ！！』





もうお前に助けてもらわなくても、生きてるって、生きなきゃいけないって気づける。

生きるために呼吸することだってできる。

なんだって1人でできる。




ドラケンの胸倉をつかんで言ってやった。これが私の宣誓だ。

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