49 ページ15
▽.
ぽつぽつと落ちてくる雨粒はゆっくりと。
私を呼ぶゾムの声はどこか遠くに。
まるで自分だけが時間に取り残されているような...そんな気分だった。
「お前の席なんてねぇから」
そう言って見下されたのを鮮明に覚えている＿＿＿。
今日は、雇用期間を終えたぴくとを見送るにしてはあいにくの天候だった。
朝から曇天で、今にでも雨が降りそうな日。平日だったのもあり、見送りに参加したのは、臨時休暇を与えられた情報部署の数名。
天候にも人脈にも恵まれないと嘆く彼に、私の方が先にここを去りたかったと出かかった言葉を飲み込んで『お元気で』とだけ返さば、不服そうな顔をされたのを覚えている。
「また来るから！じゃあみんなによろしく」
どうやら別れの言葉に聞こえたことが気に食わなかったらしい。
でも“また”なんて来ない。私に用意された席なんてないし座る気もない。まぁせめて、次会うときは敵でなければいいですね。
“また”という意味ではなく“さよなら”という意味で手を振った。
「A、こういう時はまたなっていうねんで！」
いつの間にか背後にいたゾムが、私の気持ちなど無視して大きく手を振る。
それに同調したのか、多方面から「またな」と幹部の声が聞こえた。
「ま、敵でなければって話やけど」
「はえー怖いこと言うなゾムは。流石いじめっ子w」
「矢撃っとるやつに言われとうない」
近くの木から降りてきたシャオロンが、ぴくとの足元に矢を撃つ。
これが内ゲバの国と言われる所以だろう。
問題児扱いされる幹部の2人を見たからか、ぴくとを見送ると早々と立ち去る周囲。それに続いて私も車いすを回そうと手を車輪に置いたが、それは叶わなかった。
「何してんねん。俺が押してやるから手ぇ膝に置いとき。ふっとぶで？」
『ゾム様、別に1人で行けますから。なんならメイドにでも頼みます。仕事に戻ってください』
「特殊部隊も臨時休暇やもーん。デカい任務こなしたしぃ」
『幹部は別でしょう』
「えぇ...じゃあAも早く幹部なってや」
あの日から、なんとなくゾムとの距離が近くなってしまった気がする。
一方的に近づいてきているという方が正しいが。
車いすを押す、押さない...幹部になる、ならないまで発展した言い合いは、ぽつぽつと振り始めた雨さえも、小さく舌打ちをしている彼にも気付かないほどだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 416人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆりあ(プロフ) - 煽り検定一段 柴犬愛護団体所属 シュークリームさん» コメントありがとうございます！楽しんでもらえてうれしいです！更新頑張ります！ (2023年4月16日 0時) (
レス) id: 029daaf82d (このIDを非表示/違反報告)
煽り検定一段 柴犬愛護団体所属 シュークリーム(プロフ) - 初見です！好きです！！大好きです！！おもしろいです！！！ (2023年4月15日 15時) (レス) @page18 id: ba0d86ddc8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりあ(プロフ) - アリスさん» コメントありがとうございます！尖ってる方でもお世話になってます！やっぱりアリスさんは褒めて伸ばすタイプだったんですね...！こちらも更新頑張ります！ (2021年7月29日 14時) (レス) id: 029daaf82d (このIDを非表示/違反報告)
アリス(プロフ) - 好きです！！更新頑張って下さい！！ (2021年7月29日 13時) (レス) id: 5459160ee1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりあ(プロフ) - マクドさん» 長らくお待たせしてしまってすみません！面白いって言ってもらえてうれしいです！コメントすごくモチベーション上がります！更新頑張りますね！ (2021年5月21日 21時) (レス) id: 029daaf82d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆりあ | 作成日時：2020年7月19日 17時
