キミの記憶を失う日まで (ページ12)

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「先生だってバレーボールが好きだって」

「うん、好きだけどもう出来ないからさ…」

「…」

「高校の最後の大会前にね交通事故に遭って…そこで肩を怪我して日常生活は送れるけど運動はできない身体になったの」

「ずっとバレーボール選手になりたかった。そのために頑張ってきたのに一瞬の出来事でその夢は叶わなくなった」

彼女によって紡がれる言葉をただ聞くしかなかった

君のために何もできないのが残酷だ

「俺、Aさんには先生になって貰いたいです」

「へ？」

「この数ヶ月、先生と一緒にいて…思ったんです。いつも俺に素直に向き合ってくれるし教え方も分かりやすいし話しやすい。それって教師には向いてる強みだな〜ってだからAさんみたいな先生がいたら嬉しいです」

「尚大くん…そんなこと思ってくれてたんだね」

俺なんかが先生に影響力なんて与えないかも知れない

だけど先生には自信を持って欲しかった

きっかけが俺であって欲しいから

「話込んでごめんね、もう帰らないといけないね」

先生が立ち上がるとタイミングよく着いた電車

今言わなきゃ…後悔すると思った

「先生、好きです！」

だから電車に乗る先生の後ろ姿に叫んだ

俺の言葉に彼女は困った顔をした

その顔を見るのは初めて会った日以来だった

「またね」

返事がないまま先生の乗った電車は発車した

グラスにある氷が音を立てて溶けた瞬間みたいに

彼女との間で何が崩れたようだった。

得体の知れない何かが崩れても先生への想いはずっと消えない

消えない想いが愛であることを知った。

残った愛は行き場を失くしただ苦しさを与えるだけだ。