彼女は僕を好きにならない。 (ページ11)

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やがて、バスは出発した。

遠藤さんから貰った酔い止めの飴を舐めながら、前列の会話に耳を澄ませた。

「それでスカイツリー行ったんですけど、ぜんぜん景色を見たがらないんでおかしいなーと思ったんですよ。でも私は景色見たいし、連れて行ったんですね。そしたら『生まれたての子鹿か！』ってぐらい足ガクガクさせちゃってて…」

「あー、安嶋くんは基本ビビリだから。今日もお化け屋敷でチビると思うけど、見捨てないでやってね！」

「チビらねぇよ！」

あじが声を荒げ、前列が朗らかな笑いに包まれた。笑の余韻が消えた後、田村さんが少し声色をひそめて呟く。

「でも今日のお化け屋敷、すっごく怖いんでしょ。ちょっと不安かも」

「大丈夫だって！オレがついてるから」

「深田くんじゃ、信用ならない」

何の予告もなくお化け屋敷に入るペアが決まっている。まぁこれも当たり前。

「オレ、こー見えて頼りになるよ。マジで」

「えー。なんかどさくさに紛れて胸揉んだりしてきそう」

「しないしない。ちゃんと揉みたくなったら揉ませてくれって頼む」

「誇らしげに最低なこと言わないでくれない？」

すっかり田村さんと深田は打ち解けていてびっくりした。

深田はモテる。
人懐っこくて、明るい性格、それがよく出ている柔和な顔立ち、引き締まった身体やスポーツマンなところも高得点だ。

だけど、深田は自分を好きな子を好きにならない。

クラスの端に座っている地味な子に興味を持ち、振られる。

深田の失恋の慰めを何度してきたことか。

このままだときっと田村さんは深田のことを好きになる。

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「内村くん」

遠藤さんが話しかけてきた。僕はまだ僅かに残っている飴玉を舐めながら、ゆっくりと振り向いて口を開く。

「ん？なに？」

「内村くんは、お化け屋敷って平気なタイプ？」

「さぁ。あんまり入ったことないから分からない」

「そっか〜」

「なんで？」

「私、お化け屋敷入るの初めてなんだよね」

この後続けられる言葉は何となく予想がつく。

「だから、よろしくね」

遠藤さんは僕に向かってにっこりと微笑んだ。

入ったことない理由が苦手だからということは何とか隠さなければならない。