いまを春べと (ページ6)

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「お前さ、なんでこっちの大学に進んだわけ？」

正面に座る海人の口調は、心配とか疑問とかじゃなく、むしろ詰問に近い。私は小さくなって、アイスコーヒーのストローに口をつけた。

「地元の大学、文学部なかったでしょ？」

「まあ、そうだけどさ…。」

それ以上続ける言葉を見つけられなかったのか、海人は手持無沙汰に店内を見回した。

大学から歩いて20分弱かかる、小さなカフェ。一見普通の住宅に見えるような外観のせいか、それとも大きな通りから外れた所にあるせいか、中は空いていて静かだ。

「…で？ちょっとは、落ち着いた？」

「うん、ごめんなさい。海人のおかげで助かったよ。よくこのお店、知ってたね。」

「……別に。偶々、見えたから入っただけだし。」

そう言うと、海人はなぜか不機嫌そうに視線を外した。こういうところが、やっぱり少し苦手だ。

「…あ、やべ。俺、そろそろ行くわ。」

「え？」

「同じ学部のやつらと、この後集まんだよ。」

「海人、もう友達できたの？同じ学部ってことは……経済？」

「SNSで声かけあってたんだよ。……それから、経済じゃなくて社会学部な。」

いい加減覚えろ、とまた不機嫌に言いながら、海人はきっちり自分の支払いだけを済ませて出て行った。

その後姿を見送ってから、また一口アイスコーヒーを飲む。それから、私はぼぅっと窓の外を見た。

海人が言おうとしていたことは、なんとなくわかる。

大人数の話し声に、大きな音。そういうものがひどく苦手で、そのせいで色々と苦労をしてきた私が都会暮らしに向いていないことは、自分でもよくわかっている。

でも、やっぱり曲げられなかった。自分のやりたいことを。小学生の頃から本が大好きで、いつの間にかのめりこんでいた和歌の世界を、思いきり研究してみたかった。

地元に1つしかない大学には、文系といえば教育と経済だけ。それに引き換え、この大学には文学部もあって、名のある教授もいて、おまけに資料も豊富だ。

迷って、反対もされて、それでもよく考えて。自分で選んだ道を、私は今から歩いていくんだ。