いまを春べと (ページ49)

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「なになに、なんで笑ってるの？」

「…もしお姉ちゃんがいたら、こんな感じかなって想像してしまって。」

私お姉ちゃんが欲しかったんです、と言い終わらないうちに、七五三掛さんは私の髪からぱっと手を離した。背中に彼の体温を感じた瞬間、細いけれどうっすらと筋肉を感じられる2本の腕に後ろから包まれる。

「…お姉ちゃんじゃなくて、彼氏がいい。」

「え？」

「俺を、Aちゃんの彼氏にしてくれませんか？」

「……すごく、急ですね。」

「ごめん。でも、ちゃんと言ってなかったし、今すごく言いたくなった。」

そう言うと、七五三掛さんは私から離れて自分の髪をくしゃくしゃにしながらうつむいた。

「…なんか、ダセえな。」

苦笑いをしながら一瞬舌を出すと、七五三掛さんはすぐに立ち上がった。お風呂に行くらしく、「待っててね」と私に言う表情はいつもの余裕のある表情に戻っていた。

それからしばらく、私はぼんやりとその場に座っていた。ああいう仕草をして、ああいう言葉を使うんだと、新鮮な驚きが抜けない。少し少年っぽくもある恥じらいの表現は、七五三掛さんがすると不思議なほどに魅力的に映った。

「お待たせ。」

私と同じくらいの時間をかけてお風呂から出てきた七五三掛さんは、氷で耳を冷やす私を見ると小さく笑った。

「…本当に、いいの？」

「はい。」

七五三掛さんが、ためらいがちに私の髪を耳にかける。今日、初めてのピアスを開けてほしいと頼んだのは私だ。おそろいのピアスがしたい。それが、クリスマスプレゼント。

「…なんか、大切な人を傷つけるみたいで怖いな。」

「傷じゃないですよ。」

耳たぶに痛みがはしる前に交わした会話は、これだけだった。

「私を、恋人にしてくれませんか？」

彼の耳に光る真新しいピアスを見ながら、私はそう言った。七五三掛さんは、指先で私の耳をそっとなでた後、静かに私を抱き寄せた。