いまを春べと (ページ48)

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スーパーで買い出しをしてから、一緒に夜ご飯をつくって食べる。

字面にするとたしかに少し味気なくも思える私のリクエストを忠実になぞって、七五三掛さんの部屋で温かい鍋を囲むころには、彼の指に真新しい絆創膏が貼られていた。

七五三掛さんも一人暮らしをしているのだし、包丁さばきが壊滅的というわけではない。でも、本人も認めているようになかなかのうっかりさんであることは否定できないようだ。

「指、痛い？」

「ううん、全然。普段は指切ったりしないんだけどな。」

恥ずかしそうに肩をすくめつつ、Aちゃんは料理上手だね、とさりげなく褒めてくる。特に料理が得意という意識はなかったけれど、そう言われると素直に嬉しい。

「Aちゃん、先にお風呂入っていいからね。洗い物は俺がやっとくから。」

一足先に食べ終わった彼は、にっこり笑ってそう言った。私が遠慮しても、料理では役に立てなかったからと言って譲らない。

仕方なく私は、先にお風呂を使わせてもらうことにした。

温かいお湯に肌をさらすと、無意識に深いため息がもれる。なんとなく肩が凝っていることに気づいて、つい数時間前まで私は論文の発表を聴いていたのだと思い出した。

なんとなく不思議な気持ちでお風呂から出て部屋に戻ると、ちょうど洗い物を終えたらしい七五三掛さんがこっちを向いた。

「どうしたの？そんなキョトンとした顔して。」

「……なんだか、不思議だなと思って。」

不思議？と首を傾げつつ、七五三掛さんは洗面所からドライヤーを持ってきて自分の前に座るように促した。それがあまりに自然で、また不思議な気持ちになる。

思えば今日、泊っていくかと聞かれたわけでもないし、泊っていきたいと私から言ったわけでもない。それなのにどうしてこんなにも違和感なく、私はここにいるのだろう。

「…何してるんですか？」

「んー？Aちゃんの髪綺麗だから、なんかいたずらしたくなっちゃって。」

丁寧に髪を乾かしてくれたと思ったら、七五三掛さんは私の耳の横で髪を三つ編みにしていた。思わず笑ってしまった私に、今度は七五三掛さんが怪訝な顔をする。