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「…そっか、」
全く知らない土地で奇跡的に知り合いに会えたときのような、力の抜けた淡い笑みが目の前の顔に浮かぶ。
両目に涙が浮かんでいるのが見えて、私は慌ててハンカチを差し出した。
「…っ、すいません。俺、クソダセえな(笑)。」
私のハンカチは使わずに拳で涙を拭った後、しずさんは鼻をすすりながら窓の外を見た。
「もう聞いてると思うんすけど、俺ちびの頃からしめと一緒で。今じゃ信じられないかもしれないけど、あいつすげえやんちゃだったんですよ。足も速いし、めちゃくちゃ元気だった。」
だから余計にショックだったと、続ける声が震える。
「こんな元気なやつが、まさかおばさんと同じ病気なんて。信じられないっていうか、もう、ほんとに信じたくなくてっ…」
七五三掛さんよりずっと幅の広い肩が、小刻みに震えている。
私は、叫び出しそうになるのをこらえるのに必死だった。
“おばさん”は、きっと七五三掛さんのお母さんのことだろう。彼のお母さんは、もう亡くなっている。そのお母さんと同じものを、七五三掛さんが抱えているなんて…
「…でも俺、諦めてないっす。おばさんが亡くなった時と違って、移植だってできないわけじゃないし。それにしめは、まだ普通に生活できてるし。」
その声は、まるで自分自身に言い聞かせているみたいだった。この人は、七五三掛さんのことを本当に大切に思っている。だからこそ、たくさん苦しんできたんだろう。
その苦しみを、私は卑怯な嘘を使って勝手に共有する存在になってしまった。その事実が、私の心をじりじりと締め付ける。
「……1つ、聞いてもいいですか？」
「ん？」
「七五三掛さんは、嘘が上手な人ですか？」
「嘘、？」
一瞬怪訝な顔をした後、視線を斜め上に向ける。腕を組むと、たくましい筋肉の形がはっきりと分かった。
「…素直なやつだから、嘘は下手かもしれない。ただ、相手に自分のどういう面を見せて、どういう面を隠すのかっていうのが、結構厳しいんだよな。しめが自覚してんのかはわかんないけど、そこの線引きがはっきりしてる気がする。」
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作者名：おさと | 作成日時：2023年3月18日 13時
