いまを春べと (ページ36)

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「…って、俺が言って、お前はそれを信じんの？」

「え？何それ、どういう意味？」

海人は、なぜかいらだったような顔で強く息を吐いた。

「だから、お前はよくわかんない他人の言葉を信じるのかって聞いてんの。お前、昔っからそうだよ。いい子ぶって、肝心なところで踏み込めない。そのくせ、他人の意見にすぐ揺さぶられる。そうじゃなくてさ、自分からもっとぶつかって、見て聞いて、ちゃんと自分で判断しろって言ってんの！」

なんでこんなこと俺が言わなきゃいけないんだよ、と椅子を蹴るような勢いで立ち上がると、海人はどこかへ行ってしまった。

「…海人も、バカだよな(笑)。」

どのくらいそうしていたか、呆然としていた私の横で宮近くんがため息混じりに苦笑した。いつの間にか近くの自販機で買ってくれていたらしく、缶コーヒーを2本持っていて、片方を差し出してくれる。

「ごめん…。」

「いいよ。……それより、気にしてる？」

「海人に言われたこと？」

「それもだし、その……好きな人？のこと。」

「海人の言ったことは、本当にその通り。痛いとこつかれたなって、思うよ。あと、その、あの人が遊び人とかっていうのは……」

「…めっちゃ気にしてんじゃん(笑)。」

「海人が、ふざけて言っただけだと思うけど。でも……もし本当だったら、どうしようって思う。」

そう言うと、宮近くんがふっと小さく笑った。缶のプルタブを指先で弄りながら、そっと息を吐く。

「俺、思うんだけどさ。『もし本当なら』って思うときは、大体本当だって頭が思い込みかけてるんだよ。」

「…たしかに。」

「Aは、その人が本当にそんな風に見えた？」

「……私には、そうは見えなかった。」

「なら、そっちを信じたらいいよ。海人も言ってたけど、モヤモヤするなら相手に多少ぶつかっていくのもありだし。完全には理解できないだろうけど、できるだけ相手を知ろうとして、あとは自分の感覚を信じるしかないと思う。」

なんか偉そうなこと言っちゃったな、と照れくさそうに笑うと、宮近くんは空になった缶を捨てに席を立った。

その時ふと見えた横顔は、私の何倍も大人びて見えた。